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抗う。

 はじめましての方もそうではない方もこんにちは。アイトピア通りで”きゅう“という障害福祉施設の所長をしています、北村誠悟と申します。

 先日、『彼らは世界にはなればなれに立っている』という小説を読みました。作者は太田愛。ジャンルはファンタジー?もともと、作者は超大作のクライムサスペンスをいくつか書いています。ですので、この作品は作者のなかでも異質なものになっています。

 未来のような、過去のような、どの時代かわからない、どことなく西洋のような雰囲気の〈塔の地〉の〈始まりの町〉が物語の舞台です。ある事件のあと、街の人間がひとりいなくなります。それがはじまりです。そこから、町の人間が、みんな、いなくなるまでに何が起きたのかを、四人の語り手によって語られ、物語は紡がれていきます。

 〈塔の地〉の人間は自分たちのルーツである過去を賛美し、そのルーツを持たない異国人を受け入れているようで排斥しています。投票率は低く、その予算を他の分野にまわした方が、メリットがあると政府がジワジワと発信し、選挙がなくなっています。よって、報道もなく、情報は統制されています。

 登場人物のひとり、コンテッサは、語り手の一人である魔術師に、こう言います。「なぜ町の人間は抵抗しなかったの。」魔術師は「抵抗することで、何かを変え得るとは思えなかったのだろう。」と答えます。コンテッサはそれに対し、「成果が約束された抵抗など、どこにあるというの。」と抗います。

 〈塔の地〉の〈始まりの町〉はわたしたちの遠くない未来、今、訪れている現在、かもしれません。そうならないよう、抗うことが必要です。悲しい物語でした。

2024.3
きゅう所長の雑記 おれのがヤバイ

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