見出し画像

手のかかる「古式醸造法」が当社の原点。 まず、それを大切にしていきたい。【大山食品株式会社(前編)】

九州の醸造メーカーを中心に構成される「九州ビネガー会」。各社のものづくりへの思いを紹介するシリーズ『TSUNAGUレポート』が今回からスタート。第1回は、90年以上も玄米黒酢の醸造を続け、オリジナル調味料の開発にも積極的な宮崎県の大山食品。九州ビネガー会会長も務める、社長の大山憲一郎さんにお話を伺いました。前編・後編の2回で今までの歩みや商品作りのこだわりをご紹介します。


昭和5年、宮崎での酢づくりをスタート

 私の祖父にあたる大山清が20代のときに創業しました。宮崎に住むあるお酢屋の男性と偶然に出会い、酢の製造を一から教わったことをきっかけに、甕(かめ)仕込みの醸造をスタートしました。

 元々は隣の国富町に工場を置いていましたが、昭和48年に、現在の綾町へ移りました。その理由は、広い敷地と、甕を設置できる日当たりの良い高台があったから。私たちが行う静置発酵法に適した環境だったのです。

 また、良質な水に恵まれていることも大きな決め手だったようです。綾町には、「綾の名水」と呼ばれる豊富な地下水があります。雨が降っても濁らないほど澄んでいて、ミネラルバランスも良く、酢の醸造にも加工食品の製造にも非常に適した水です。当社では、これを仕込みから割水まですべてに使用しています。

画像1


巨大な甕でじっくりと発酵する「古式醸造法」

 当社の黒酢は、屋外に置いた巨大な三石和甕を使い、1年以上をかけて発酵・熟成させる昔ながらの「古式醸造法」で作られています。ここまで大きな甕を使っているところは少ないと思いますが、大きいぶん温度変化が穏やかになり、まろやかに仕上がるのです。
 
 春と秋の年2回仕込みで、基本的には、屋外の甕で6カ月間発酵し、屋内タンクに移してさらに6カ月間熟成させます。何度も味の変化を確認しながら、時間をかけて育むことで、しっかりとした味わいとコクが生まれます。中には4〜10年ほどの長い期間大切に仕込んでいる黒酢もあり、これと若い黒酢とブレンドすると深みが増します。

画像2


おいしさを引き出す、原料のこだわり

 酢づくりをする上で、特に大切にしているのは“原料”です。まずは酢酸発酵の元になる「種酢」。単一の菌を培養するのではなく、創業時から引き継ぎながら使われてきた伝統の種酢を入れています。長年この地で育まれてきた複数の菌が混ざり合うことで、複雑で深みのある味わいになるのです。

 お米はオーガニックにこだわり、使用するのは無農薬玄米と有機玄米のみ。できる限り自社生産のものを使って、足りない分は宮崎や九州の無農薬農家さんから仕入れています。

  麹は、白麹と黒麹の両方を使用。黒麹は扱いにくく手間もかかりますが、よりコク深く仕上がるので、代表作の『綾の有機玄米酢』や『綾の有機黒玄米酢 プレミアム』などの飲用として好まれる商品に使いますね。反対に、料理に使われることが多く、さらっと仕上げたい玄米酢には白麹を使用します。しかし、どちらも違った良さをもつ麹なので、今後は完全に分けるのではなく、掛け合わせて使うことも考えています。

画像3


「4代目」になるまで。伝統の継承と、新しい風

 2006年から4代目となり酢づくりをしていますが、実は、会社を継ぐつもりは全くありませんでした。元々、酒づくりに興味があり、大学卒業後はドイツに留学して、ワイン農家で勉強していたんです。

 一時帰国したとき、繁忙期で忙しいからと、先代に頼まれて酢づくりを手伝ったんです。当初は2週間だけのつもりが、だんだん面白くなってきて…。気がついたらそのまま入社していました(笑)。先代は歴代社長の中でも商売のセンスに秀でた人だったので、その姿を近くで見て影響されたことも、一つの理由かもしれません。

 入社後、先代から教わって酢づくりの全工程を覚えました。当社の「古式醸造法」は、時間も手間もかかりますし、一年の中で限られた量しか作れない非効率とも、時代遅れとも言われかねない昔ながらの製法。でも、今年で91年目を迎えた大山食品の原点でもあるのです。だからこそ、長く受け継がれてきた技をこの先も大切にしていきたいと思っています。

 最近では、娘の綾夏も酢づくりを学んでくれています。新たに始めたインスタグラムやFacebookなどのSNSを使った広報活動や、チラシづくりなども任せていますが、私には思いつかないような新鮮なアイデアで、パッと目を引くものを作ってくれます。健康を意識する60代以上がメイン客層となっている当社にとって、手の届きにくい若い年代にもしっかりと訴求していくことはとても大切です。これから客層の幅を広げていきたいですね。

 次回は、酢づくりの話から少し発展し、オリジナル調味料の開発や、市場の拡大についてお話ししていきたいと思います。

画像4


<営業部所属 長女・綾夏さんのコメント>
昨年、社長と一緒にお客さまのところを回ることから始めました。そのとき、「もっと酢の魅力について知りたい」とか、たくさんご要望をいただいたんです。それをふまえて、SNSではイベントのお知らせや、酢を使ったレシピ紹介などさまざまな情報を発信しています。直売所での特売をお知らせしたところ、150個の商品が売り切れたことがあって。とてもうれしかったですね。これからもお客様の声に応えられるようにしていきたいです。

―前編 おわりー

(プロフィール)
大山 憲一郎 おおやま けんいちろう
食酢・こんにゃく・農産加工品の製造販売を行う大山食品株式会社代表。1967年生まれ。東京農業大学農学部醸造学科を卒業後、西ドイツのワイン農家にて1年間研修を受ける。帰国後、24歳で大山食品㈱に入社し、39歳で4代目社長に就任。現在、九州ビネガー会の会長も務める。
●大山食品株式会社ホームページ https://www.ohyamafoods.com