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造り手として、まだ出会えていない味・香りがたくさんある。焼酎の新しい「価値」をもっと追求していきたい。三和酒類株式会社(後編)

九州の醸造メーカーを中心に構成される「九州ビネガー会」。各社のものづくりへの思いを紹介するシリーズ『TSUNAGUレポート』の第5回。今回はロングセラーの麦焼酎「いいちこ」で有名な大分県宇佐市に本社を構える三和酒類。本格焼酎だけでなく、日本酒、ワイン、ブランデー、リキュールまで手掛ける総合醸造企業です。後編では、三和酒類の本格焼酎づくりの実際、こだわりや想いについて、代表取締役常務の和田正太郎さんにお伺いしました。

麹・酵母と会話しながら、環境を整える

大分の麦焼酎の特徴は、主原料の大麦を糖化するのに必要な「麹」も含め、すべてを大麦で仕上げることです。これにより、より麦らしい風味を生かした本格麦焼酎となります。大分県は元々、大麦の産地で麦味噌に使ったりという食文化がある土地柄です。
 
三和酒類では、さまざまなタイプの原酒を持っており、ブレンドすることで、さまざまな商品設計が可能となる点が強みです。コンセプトに合わせたオリジナルの酵母を開発していて、その組み合わせや貯蔵の期間・方法などを変えながら、焼酎のキャラクターをつくり上げています。
 
本格麦焼酎の原料は大麦。これを3~4割程度精麦したものを水に浸して蒸します。蒸し上がった後、麹菌をつけて大麦麹をつくります。そして、麹に水と酵母を加えて酵母を増やす工程が一次仕込といいます。それが終わると一次もろみが出来上がり、さらに大麦を加えて発酵させます。

「発酵」というのは、生き物なんです。環境が変わると違うリアクションが起こる。麹、酵母と会話しながら、いい結果を出してもらうために環境を整えていく。しっかりといいお酒をつくるために、それを常に心がけています。
 
私は大学で「酵母」の研究を行っていて、三和酒類入社後もお酒の研究機関に出向して勉強していたのですが、微生物の世界というのはまだまだ解明されていない部分が多く、未知の領域がある。そんな「発酵」の神秘性にとても魅力を感じますね。

「CCRN」に基づいた、個性的な焼酎づくり

三和酒類には、私たちは何をする会社なのかなど仕事の根本を表す「麹プロジェクト」という基本概念があります。「麹・麹文化の酒を識る、愉しむ」と「発酵技術と創意工夫で新しい価値を創造する」という2つの考え方です。
 
それに基づいて、「CCRN」という酒づくりで大切にすべき原点を表す枠組みを設けています。それは、「Craft…酒づくりの技術の側面」「Culture…文化的側面」「Region…地域性の側面」「Nature…自然の側面」の4つ。三和酒類の酒づくりは、これらの考え方の元に行われているのです。
 
当社の本格焼酎の中で、造り手として印象的なお酒をいくつかご紹介します。まず「いいちこフラスコボトル」。これは「全麹造り」と言って、日本酒で言う「吟醸酒」のような造り。5割(通常は3~4割)ぐらいまで磨いた大麦でじっくり(通常は2日間だが、ここでは3日間かけて)とつくった大麦麹だけを使って低温発酵します。そうすることで、酵母がつくる香りの成分も加わり、華やかなテイストに仕上げています。
 
「いいちこスペシャル」は、まろやかでバニラの香りが特徴。研究開発したオリジナルの酵母を使っていて、その原酒の貯蔵中に大麦由来の特徴的な香味がバニラの香りに変わる。「いいちこフラスコボトル」と「いいちこスペシャル」はロックで飲むのがおすすめですね。
 
さらには、思い出深い商品と言えば、2008(平成20)年発売の「いいちこ日田全麹」。通常の「いいちこ」とは全然酒質が違っていて、「いいちこ」が華やかで食中酒として飲みやすいとしたら、「日田全麹」はズシンとした力強さがある。私が入社して2年目に発売されたものです。当社もこういう深いうまみの濃淳なタイプの商品も出すんだ、と自分の中では嬉しかったですね。
 
そして、「CCRN」の「Region…地域性の側面」にあたる商品で、今、その活動がどんどん広がっているのが、開発メーカーとして感慨深い「西の星」。宇佐市で収穫された大麦「ニシノホシ」だけを原料にしていますが、焼酎の醸造適正に優れた大麦を産官学で共同して品種登録まで成し遂げたという点でも印象深いですね。
 
また、個性的なボトルデザインにもこだわりがあります。日本べリエールアートセンターの河北秀也さんとタッグを組んでいます。先ほどお話しした「いいちこフラスコボトル」(1998年発売)のボトルデザインコンセプトは「美しすぎて、捨てるのに勇気がいる」。河北さんの「一番エコな瓶をつくりたい。捨てたくなくなるようなデザインに」という発想から生まれたものです。
 
他にも、「世界で一番美しいポケットボトルをつくりたい」とした「いいちこパーソン」(1990年発売)や鮮やかな青のボトルに赤と黄色のラベル、緑のキャップの配列が印象的な「いいちこスーパー」(1992年発売) などを上市することで1970~1980年代くらいまでの焼酎のイメージを変えてくれたと思いますし、それが現在のiichikoブランドにつながっています。

左から「いいちこパーソン」と「いいちこスーパー」(表=赤ラベル、裏=黄ラベル)


焼酎造りの広がりを求め、「貯蔵」に着目

三和酒類の本社がある大分県宇佐市は、昔から米づくり、麦づくりが盛んな土地柄。さらに海、山、平地もあり、水も豊富なんです。そこが魅力ですね。本社の製造場では、硬度60㎎/ℓ前後の「やや軟水」にあたる地下水を使用。発酵の際に酵母が栄養となるミネラル成分をほどよく含む、酒づくりに理想的な水です。「いいちこ」が生まれたのも、宇佐だからこそだと思います。

お酒は、酵母、麹、つくり方が変われば全然違うものができるし、水も重要な要素。お酒造りはまさにその掛け算なのです。その土地でしかつくれない商品というのが絶対にあって。それをいかにお客さんに喜んでもらえるお酒に変えていくかが、会社の技術だと思っています。
 
その焼酎づくりでは、まだできていないところがたくさんあるんですよ。いろんな組み合わせで新しい味が生まれたり、私たちも出会えていない部分ですね。
 
特に工程の中でも「貯蔵」は、これから可能性がある。ウイスキーは「貯蔵」で、どんな樽で何年、と味を変えていくのに対し、焼酎ではそれがあまり行われていなかった。ここに「貯蔵」の研究が加わることで、焼酎づくりもより広がりが生まれるなと思っています。
 
ただ、時間がかかります。焼酎にはまだまだいろいろな可能性があると思いますが、新しい「価値」をお客様に伝えていきたいということが、いつもベースにあり、今後もその可能性にチャレンジしていきたいですね。
 
―後編 おわりー

(プロフィール)
和田 正太郎 わだ しょうたろう
三和酒類株式会社 代表取締役常務。1983年生まれ。2006年東京農業大学卒業後入社し、焼酎製造部署に配属。2009年から3年間、独立行政法人酒類総合研究所に出向。食品事業部を経て、現在SCM本部を担当。現在も、培ってきた醸造の豊富な知見を活かし、商品のさらなる品質向上のために努めている。
 
●三和酒類(株)ホームページ
https://www.sanwa-shurui.co.jp 三和酒類 検索