詩のホテルは落ち着かなかった。
HOTEL SHE, KYOTO が詩人の最果タヒとコラボレーションした、「詩のホテル」に宿泊してきました。
個人的に大好きな最果タヒの言葉が、ホテルという現実空間とどうな風に手を繋いでいるのか。
それが気になって、予約サイトを見かけた時にパッと予約。改めて確認すると、僕が予約したのはオープン初日でした。
部屋に入ると、目に飛び込んでくる壁面の詩。
おお、と見入ってからあたりを見渡すと、ベッド上のソファ、スリッパ、エアコン、果てはシャンプーやリンスのボトルにまで、言葉たちが並んでいます。
はじめは詩とのかくれんぼを楽しむように、「まさかこんなところにも」「ここにはないだろう」と、シーツを引っ剥がしたりコップを取り出してみたりと、バタバタ部屋の中を動きまわっていました。
かくれんぼも終了し、目で、手で、詩を味わったあとは、バタンとベッドに倒れて、言葉に囲まれた空間でぼぅっとしていました。
そこで実感したのが、「ああ、この部屋は落ち着かないなぁ」ということ。それは、とても素敵な意味で。
ふだん、ホテルの部屋に入って壁を見つめても、何も思うことはない。コップにだって、スリッパにだって。
でも、ここでは、自分が意識を向けていなかったものに、言葉の引力で目を引きつけられてしまう。
そうやって頭の中に潜り込んできた詩が、自分の記憶や過去の感触を呼び起こして、ずっとなにかを考えてしまう。
ぐるぐると、いろいろな思いが浮かんで、消えて、落ち着かない。
本来なら見過ごしてしまうものを、拾い上げてしまう。
それは、ちょっと気持ちのよい自分への負荷でした。
部屋に点在する言葉は、クッションや扉といったその姿を写した対象と、関わるような、関わらないような、微妙なつなひきをしながらしんと佇んでいる。
その光景は、残像となって、旅を終えて帰宅した自分の目にも映るのだろうな、と想像しました。
自宅の壁に、テーブルに、コップに、もしかしたら愛猫に?
本来はそこにない、いや、むしろ、本来はそこにあった詩を見出してしまうのかもしれない。
そう思うと、この部屋にもっといたいような、早く帰ってみたくなるような、不思議なホテル体験でした。
詩のホテル、落ち着かなかったです。
ありがとう。
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