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木の実を拾ったら人生変わった

大学3年の夏。京都への一人旅。

1番の理由は苔を見に。
2番目の理由は復縁を願いに。

鼻息荒く出発した21歳のセンチメンタルジャーニー(感傷旅行)。

プロローグを見たい方はコチラ⇩


1人、京都での感傷旅行のはずが。

同じバスツアーに参加した女性陣から声がかかり、途中からテイストの違う賑やかな旅に。60歳代、パワフルで魅力的な諸先輩方with復縁に燃える大学生の不思議な集団となった。

そんなバスツアー後編は、鈴虫寺からスタートした。

しとしと雨は降りながら、それでも初夏の緑は眩しい。冬の間ジッと耐えた生命の息吹は空へ向かって手を伸ばしている。そんな景色を見ながら、一歩一歩階段を上がった。

リーンリーンと高く澄んだ虫のが、私達を迎え入れる。書院は想像以上に広く、テーブルにはお茶と「寿々むし」と書かれたお茶菓子が置かれていた。前方には木製ケースが並び、音色とともに、灯りに照らされた鈴虫たちの様子を見ることができる。


浄化
カタルシス
心が洗われる


なるほど。それらはまさに、このことか、と実感した。若葉の緑も、澄んだ虫の音も、ご住職の説法も、すべてが有難い。

鈴虫寺に来たおかげで、煩悩にまみれた私の心は純真無垢な産まれたての赤子のような状態へと変化した……かのように思えた。


鈴虫寺の“お地蔵様”の説明が始まる。
「鈴虫寺のお地蔵さんはワラジを履いていて、皆さんの所まで歩いて願いを叶えにやって来てくれます。」

お!それはすごい!
心の中でガッツポーズする私。

「恋愛成就のご利益もあります。ただし、具体的な個人との恋愛成就を願うのではなく(ふさわしい相手と巡り合えますように)とお願いしましょう。」とご住職。

えっ!?
思わず小さな声が出てしまう。

“えー!!あの人と復縁できますように”じゃダメなのーー?。
物凄い勢いでUターンしてくる煩悩。

同時に、私の小声を聞き逃さなかった諸先輩方から即座に質問される。

「お姉ちゃん、お願いしたい人でもおったの?」
「はい。復縁したくて。」
「ダメダメ。追いかけてくれる人を探しなさい。」

説得力がある。

かなり未練はあったが、もし、前の恋人が【ふさわしい人】なら復縁もあるのかもしれない。そう自分に言い聞かせる。

ご住職にも、人生の大先輩にも言われたとおりに「どうか、私にふさわしい相手と巡り合わせがありますように」と、お地蔵様にお願いした。ご利益のある黄色いお守りも頂いて寺をあとにする。


その1週間後。


なんの前触れもなく、当時同じサークルに所属していた男友達に告白されたのである。大学1年の時からの友人なので付き合いは3年目。「なにを、いまさら?」それが正直な感想だった。

良い人だとは知っているけど……。
好き?恋人?全くイメージできない。
かと言って、断っていいのだろうか。

いや、待てよ。コレはお地蔵様が引き合わせてくれた「ふさわしい相手」なのでは?お地蔵様が京都から歩いて来たのだとしたら、ちょうどのタイミング。今は友人としか思えないけれど、コレはきっと運命の人に違いない!

そう確信した私は「よし!付き合おう!」と即返事をした。

今考えれば相手に失礼すぎる。
ちなみに今の夫である。


運命の相手かどうか、正直今でも分からない。ただ、結婚12年目でもナンダカンダうまくいっているので、結果オーライといったところだろう。

しかし、この話を夫にしたことはない。
なんとなく申し訳ないと、ずっと心に引っかかっていた。友人として接した3年間は加味されているとはいえ、お地蔵様のご利益で下した決断。なんか、、、ね。


そんな思いもあって、ふと、夫の思いがしりたくなった。なぜあの時、友人3年目にして急に私に告白したのか。

「あのさ、大学3年の頃。急に付き合うことになったじゃん?あれ、なんで?」
「あー。」

少し間があって、夫はこう答えた。

「木の実拾ってたから。」

木の実……??


「大学3年の時、木の実拾ってたやろ?おばさんと一緒に。」

記憶の糸を手繰り寄せ、私はかろうじてその映像に辿り着く。

「あぁ!!」

そう、確かに私は木の実を拾っていた。大学近くの緑豊かな場所で。シイの実を拾っていた。ドングリに似た形状だけれど、先っぽが細い、あの木の実。炒めると香ばしくて、ほんのり甘くて美味しいのだ。

あの日、シイの実を見つけた私は夢中になって拾っていた。そしたら、通りかかった60代くらいの女性が2人加わって、3人で楽しい木の実あつめの時間になった。

その横を自転車に乗った友人(夫)が、通りかかったのである。

「何しとんの?」その質問には答えず、
「コレ、フライパンで炒めると美味しいから。家でやってみて。」

そう言って、なかば強引に、私は友人にその木の実を渡したのである。

アレの、どこがどう告白に繋がるのか。
人生とは分からないものだ。

ただ、それを聞いた瞬間、お地蔵様のご利益を信じて即行YESの返事をした、私の罪悪感はキレイさっぱり吹き飛んだ。

と、同時にその話で思い出したことがある。夫からの印象的なプロポーズだ。


片膝をつき、手には指輪の箱
ではなく、チューリップの球根。

え?球根?

「求婚します」


木の実拾いの印象が強すぎて、相当な植物好きだと思われているのだろうか。ただ、なんとなく、あのプロポーズの答え合わせができた気がした。

早いもので、2人の間に生まれた娘は今年、小学2年生になる。

この夏、娘は「種を植えてみたい」と自分の食べたスイカの種を植えた。昨年育てた朝顔の種も植えた。ヒマワリも。とにかく種を次から次に植えまくっている。「そこに種があるから」と言わんばかりに。

その様子を夫は今日も微笑みながら見つめている。

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