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使われる者の運命

一家離散らしい。
しかも全身バラバラの状態で。

悲惨な一報が入ってきた。仲間の最期。

先程から部屋では、「もう最悪~。だから気を付けてって、あれだけ言ったのに」と、使う側の者たちが嘆いている。最悪なのは、あなた方ではない。我々のほうだ。

粉々になって、洗濯物にしっとりと貼り付いた仲間を横目で眺めた。同情もするが、愉快でもある。

彼等は数日前に、この家にやってきた。ポケットに入るサイズ。話題キャラクターの印字をされ、ラッピングされた人気商品であった彼等は新入りの癖に幅を利かせ、私はその態度が気に入らなかった。

悲惨な結果とはいえ、笑う心を持つ自分を責めるつもりもない。

***

また、いけ好かないヤツがやってきた。

明らかに我々とは肌ざわりが違うのか、使う者から喜ばれている。パッケージには“セレブ”の文字。いかにも、という様子で机の特等席を陣取る姿勢に謙虚さは見られない。視線も気になる。



まるで貴族気取り。けれど。

「あれ?甘い味がする。なんで?甘いー」

まるで本来の使い方をされることはなく、何故か子供の舌で舐められ破れて、その生涯を終えた。ほら見たことか。所詮使われる側。庶民だろうがセレブだろうが運命には抗えない。

***

いよいよ自分の入っているビニールの封が切られた。今まで重なっていた、幾層もの仲間が次々と去っていく。

分かっていたことなのに。気づけば震えていた。まだ見ぬ世界が、知らぬ未来が私にのしかかってくる。昨日まで自分の上に寝ていた一枚がとうとう半分顔を出し、順番を待つ。この一枚が去れば、次は自分。


「怖くないの?」震える声で聞く。
「怖くないよ」彼女は言う。

「もともと使われる者としてけた生。どんなにあがいても使う者にはなれないのだから」彼女はそう付け加えた。エアコンの風に吹かれるままにゆらゆらと、なびきながら。その立ち姿は凛と美しい。

使われ、丸められ、ゴミ箱の隅へと投げられた後も彼女は一筋の光を放っているように私には見えた。


今まで、何を小馬鹿にしていたのだろう。自分だけは特別で、別な物になれるつもりだったのだろうか。

「何様なのだ」と自分自身に言いたい。我ながら滑稽だった。

使われる者として生まれ、どんなに足掻いても使う者になどなれる訳はないのに……。

ようやく気付いたそんな時、私は使う側の手にそっと身を引かれていった。

***

「ハンカチは持ったのにティッシュを忘れてしまってね。1枚もらうね」
そう話す女性は年の頃80くらいだろうか。丁寧に私を2度折りたたむと、ポケットに優しく私を収めた。彼女の家へと、そのまま運ばれていく。

机の花瓶からこぼれた雫を拭うために私は役目を終えた。終えたかと思われた。

1ヶ所濡れた私を丁寧に広げると、彼女は洗濯ばさみハンガーに干した。両角を固定された私は静かに揺れる。

たった数メートル上がっただけなのに、そこから見える景色はまるで今までとは違う。同じ風に吹かれながら、横で鳴る風鈴が心地よい。生まれた森を感じた。

穏やか。
今この瞬間、そこに吹く風に揺られながら私は自分の運命を受け入れようとしていた。

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