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『特集・2024』“特殊”概念が掘り続けた穴 Vol.1


違法は悪?


「守られない法律」が持つ力は重いと思う

日本の秩序は憲法を頂点とした法に守られる。法を盾に警察は犯罪を取り締まるし、人間の最大欲求である「やりたい放題」を押さえつけるのも同様だ。

ただ、人口は1億人超え、全国津々浦々を穴無く監視するのは全国にネットワークを張り巡らせる司法機関であっても不可能に近い。
そして、何より厄介なのが多勢に無勢な生物界の悪しき現状

民主主義が悪なのか、それとも拡大解釈がすぎるのかは判断が難しいところではあるが、何でも多数決に巻かれてしまう。
法的にアウトな事でも、数が増えれば「社会問題化」し、是非について議論が巻き起こる。「ダメだよそんなの」と一蹴する意見も生まれるが、抵抗勢力も毎度それなりの力を発揮するからどっちつかずで時は経っていく。

勿論、法律も時代に追いつかなくなれば変えていくべきだと思う。どっちつかずで過ぎていった時間を尺にするなら、長ければ長いほど壁は固く、高いのだ。

凹んだ壁、砕けた拳(準備編)

群馬県在住の佐藤悠介さん(仮名)は、7月分の給与明細を見て溜息をついた。
3ヶ月前に異業種から運送業に転職した佐藤さん。最初は2tトラックからスタートしたが、当初所持していた「準中型限定免許」の限定解除が必要だった為、自腹で教習所へと通った。

運転免許問題

運転免許は社会人として必ず持っておきたい資格だが、情勢の変化で仕組みは変化してきた。
平成19年6月以前の普通乗用車免許では、所謂「4tトラック」まで運転できた。増トン車でない限り、現行の4tトラックも限定免許の基準である積載5t未満、総重量8未満を満たすものが殆どだ。

しかし、4tトラックの技術を伴わない運転で事故が多く、普通免許の範囲は縮小。
新たに「中型免許」が創設され、普通免許で運転できる範囲は積載3t未満、総重量5t未満となった。

免許の種類が増えたことで、範囲が細分化された。運送業で一番最初に触れる2t車でさえ、ウイング(横開け)やパワーゲート(引越しや店舗配送に多い)といった設備が付いただけで準中型限定免許の限定解除が必要になる事が多い。
視点を変えれば、運送業に入るにはお金がかかると言うことだ。

自覚はあったけど…

群馬県の最低賃金は昨年(2023年)10月から935円となり、前年度の865円から大幅にアップした。1000円の大台は突破出来ずにいるが、一歩前進した形となった。

平均1日10時間以上、どんなに短くとも定時と言われる8時間以内には終われない。
更に、県内や隣県に留まらず、神奈川県や千葉県にも配送先があり、高速代は出ない為片道130km以上下道を走らされる。
だから出発時間は早い時で日付が変わって間もない1時や2時、遅くても3時や4時だ。
労基法上、22時から翌5時の労働には深夜手当が付き、残業すると1時間あたり25%割増賃金となることが決まっている。

佐藤さんが周る卸先は8割型午前指定。人手不足の中、数ある卸先をカバーするためには1人が何軒も周らなければならない。
人手不足の為、同じ県内で収まらず県境を跨ぎながら卸す日もある。

「高速道路延伸」のニュースが嬉しいのか嬉しくないのかわからなくなる。ICが物流センターから近いか否かは別にして、利便性向上を利用して働かせ放題にする会社もあるに違いない。
運送業に「認められた」労働時間は月293時間以内、出勤日数が20日とすれば単純計算で1日あたり14時間程。人手不足と緩い時間規制を基にギリギリまで働くことは日常茶飯事で、佐藤さんの勤務先のように大手企業を相手にする会社であれば、厳しいコンプライアンスで残業代は確実に支給されるはずだが…。

残業で稼ぐ概念の更に上をいっていた

佐藤さんの給与明細には「深夜手当」や「残業手当」の項目はない。
基本給の他にあるのは「運行手当」と「無事故手当」、そして「交通費」のみ。
月平均の運行手当は70,000円程。運行手当が乗っかる基本給は業界特有の安い水準。
基本給が低い会社は必然的に残業や休日出勤で稼ぐ事になり、運送業界はその典型だ。

運行手当が70,000円で残業や深夜手当が無いとなると、コミコミなのかと考えるがそんな筈は無かった。
佐藤さんの勤務実態である「3時間残業/日+深夜2時間/日」で計算すると、それだけで「運行手当」に近い金額になるからだ。

結論を言うと、時給以下どころか、残業も深夜も未払いにされていたのだ。運行手当というベールに包まれた悪質な中身が遂に顔をのぞかせた。

                 つづく












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