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『特集・2024』休憩と待機は水と油(現地調査編)


アタりばっかじゃないw

物流センター卸しのドライバーにとって、待機時間は大きな問題となる。
佐藤さんの仕事は1軒だけも場合もあれば、2軒3軒の日もある。しかも受付締切や完納が午前中なのがほとんどなので、出来るだけ早く出発し、1軒目でハマらないようにする。

佐藤さんが担当する埼玉県の配送先は、規模が大きく、夜間入場や待機が出来る場所が多い。そしてバースも5、6台着けられるから回転率は悪くない。
会社で翌日のルートを聞かされた時に安心する場所で、気分が少しだが楽に仕事出来る。

しかし、同じ埼玉県でも「ハズレ」があるのだと佐藤さんは言う。

道路改良は運送業にとって喜ばしいことだけど…

埼玉県でも南部に下っていくと東京の気配が強くなる。常磐道の三郷、東北道の川口、未完の終点与野から都心まで首都高一本で行けるのだ。

首都高埼玉大宮線・与野出入口
(さいたま市中央区 2023年11月3日撮影)

事情を知れば下手すると随分北の鴻巣までそんな感じに思うほど、道路は便利になってきた。

鴻巣市箕田の熊谷バイパス終点から
将来的には新大宮上尾道路と直結する計画がある
(埼玉県鴻巣市 2023年10月29日撮影)

人々の生活と共存する一般道路は、車線数や信号の数に関わらず常に危険がある。
免許制度になっていない事で、同じ「車両」でも交通モラルが伴っていないことが多い自転車、フットワーク次第で自由自在に動き回れる歩行者、何トンにもなる鉄の塊である自動車が共存する空間だからだ。

佐藤さんの会社は高速道路利用に消極的で、法定の運行時間に収まる限りは距離があっても一般道を走る。
高速道路と一般道で時間に変わりがない場合もあるが、トータル考えると高速道路の方が早くなるのが常識だ。

ただでさえ長い労働時間でスケジュールにも気を使いながら、一般道をひたすら走る。
運送業はそんなもんだよ」と言われればそこまでだが、それに見合う賃金は払われていないのが実情。
そして、一般道でも高規格バイパスのような道ができれば一見プラスになるように感じるけど、それに乗じて会社は「高速道路」という兵器からどんどん運転手を遠ざけていく材料になっているように私は感じる。

現地調査in川口

佐藤さんが話してくれた「ハズレ配送先」は、まさに高速道路と一般道で倍の差があるような場所。
首都高川口線・足立入谷出口から約10分、荒川を挟めば赤羽の位置に問題のセンターがある。

荒川大橋バス停にて「途中で右曲がっちゃうやつ?」=足立区行き

赤羽駅東口のバスのりば
(東京都北区 2024年4月7日撮影)

スマホで調べてみると、赤羽駅東口から問題のセンター付近まで所要時間は8分とあった。
行き先は色々で、「東川口駅北口」や「鳩ヶ谷公団住宅」という川口市内が終点の路線もある。川口行きの路線は、JR赤羽駅から徒歩10分程の埼玉高速鉄道「赤羽岩淵駅」を過ぎると早速、県境の国道122号「新荒川大橋」へと向かう。

埼玉高速鉄道・赤羽岩淵駅
(東京都北区 2024年2月17日撮影)

埼玉高速鉄道ができた事で国道122号沿線は便利になったと言える。しかし、川口市の東京寄りの東西交通がバス以外に無く、荒川区舎人や足立区西新井といった場所を最短で結んでいる。

今回私が乗車したバスは「西新井駅行き」。
鳩ヶ谷や新井宿へ国道122号を北上するのではなく、一旦川口市へ入ってから足立区へ戻るルートを採る。
荒川大橋バス停で、鳩ヶ谷方面へのバスを利用するであろう乗客が運転手にこう訪ねていた。
「途中で右曲がっちゃうやつ?」
東京に近づけば近づくに連れ、メイン道路から1本逸れるだけで、大きい車にとってはリスクが高まる。しかし、その乗客の質問には「そうです」と答えていた。

「バスが通れる=それなりの道路」の図式は必ずしも当てはまるとは思えないが、「領家」というバス停は国道を右に逸れた先にあり、センターの所在地もまた、領家だという。

下車

国際興業バス・領家バス停
(埼玉県川口市 2024年4月7日撮影)
芝川にかかる梛木の橋
(埼玉県川口市 2024年4月7日撮影)

国道122号で県境を越えてすぐ、荒川の支流である芝川沿いに延びる道路をバスは走る。
途中の「領家」というバス停で下車。

センターへは、首都高の足立入谷出口からだと、4tや大型が行き交うには少々窮屈に感じる「梛木の橋」を渡るという。
外国人が多い街として有名な川口だが、人口は右肩上がりの状態が続く。東京が目と鼻の先にある領家地区もまた、立派な住宅街が広がる。

首都高川口線は東北道や外環道とつながるから、その出入口が近くにあるという事で物流拠点にはもってこいだと思う。
更に「職住近接」の観点から、騒音や排気ガスの問題があるといえど、就労環境としての条件は悪くないのか。

芝川を渡った先に広がる「荒景」

曲がったガードレール
(埼玉県川口市 2024年4月7日撮影)
標識柱は傾き、本体も損傷が酷い
(埼玉県川口市 2024年4月7日撮影)

労働時間と休憩時間が水と油のように混ざり合うことは、あってはならないこと。
休憩時間は「自由に利用できる時間」だが、運送業では違った実態がある。

佐藤さんによると、問題のセンターは待機時間が非常に長いという。昨年の年末最後の卸しでは尋常じゃない待機時間が発生していた。
1軒目の卸しが千葉県で7時頃、2軒目で川口のセンターへ向かい受付が9時、卸し開始は何と13時近く。約4時間の待機となった。

待機は待機場は無く、路上駐車。コンビニは領家バス停の一つ手前、「仙元橋」バス停近くにセブンイレブンがあり、センターからは徒歩で10分以上。単に往復するだけで20分、買い物や用を足せば結構な時間になる。

受付は事務所内のタッチパネルで行い、6時30分頃から順次ショートメールで呼ばれるのだという。順番待ちの状況は事務所内のモニターで確認できるが、1台あたりの時間は日によって、メーカーによってまちまち。
いつ呼ばれるか分からず、早朝以外は身動き取りにくいという。

佐藤さんの会社では本来「待機時間」としてカウントされる手待時間も、休憩時間として扱うよう指示される。
待機場所を確保すべく、やっと大型車が曲がれたりすれ違えるような細い路地を何周もすることがあるという。止められたと思いきや、移動を求められることもあるためにタコは「休憩」のまま、新しい場所を探さざるを得なくなる。

写真のガードレールと標識は、狭い路地をトラックが動き事で起きる問題の片鱗である。
物流センター周辺の「荒景」が解消される日は、果たして訪れるのだろうか。

                つづく




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