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「東京手当」を出しても東京に住む労働者は豊かにならない

東京地方労働組合評議会が、東京で夫婦・子ども4人家族の「普通の生活」に必要な額の試算を出したすとる記事があった。この記事に呼応して、東京に住むならだれでもこの所得が得られるべきだ、とする論評が多数見られた。

私は、そのような論評に賛成せず、別の案を推す。東京のように人口密度の高さから住居費や保育/教育費によって生活コストが上がっている場合、「東京手当」のように給料に色を付けても、それが全て限られた土地を買う競争に費やされ、地主の不労所得に吸われて労働者の可処分所得を増やさないからである。

過密地域の住民全員が所得が高くなると……

この問題が端的に表れているのがシリコンバレーである。シリコンバレーは年収1000万は下のほうというほど高給取りが集まっているが、アメリカの法制度に由来して住宅難が解消できない(高層マンションなどはなかなか建てられない)。この結果として、まずそこで働くにしても住宅を手に入れることが最大の課題となり、地価は天井知らずで高騰し、普通の人が住めない街になっている。例えばサンフランシスコの生活費の高さを嘆く記事では、記述の大半が住宅価格の高騰に割かれる。

► 4人家族で世帯収入が11万7400ドル(約1300万円)以下は、低所得者と見なされる
► ある調査によると、一般的に年収数万ドルと言われるテック業界で働く人の半数以上が、生活費の高騰で子どもを持つことを先延ばしにしていると答えた。
► ひとり暮らしの人が最低限の生活を送るために必要な金額は、1年で6万9072ドル(約760万円)

またサンホセの記事でも同様の様子が記される。

► Nearly 47% of renters in the San Jose metro, representing a plurality, spend 30% or more of their income on rent. The US Census considers these households "burdened."(サンホセメトロの借家人の47%[住民を十分代表する割合]は、所得の30%以上を家賃に費やしている。国勢調査はこれらの世帯を過負担だと看做している。)

この価格高騰はもっぱら供給に限りのある不動産で起き、地域を跨いで移動可能な動産では価格高騰は起きない。別の現地在住者の記事を参照すれば、コストコで買う食料品や日用品は日本より安いくらいとしている。一方で、土地や教育といった場所に縛られるものは青天井でコストが高くなることが分かる。

これらの記事を信じれば、ローンを組んで1億円で家を買って、ローン返済とは別に毎月30万の税・保険を負担するか、または月50万で借家を借りるか、いずれにしても所得の1/3を住居費に費やしており、生活は楽にならない。テック企業に勤めない限り、飲食や教育など必須と思われる労働をしていても家が高すぎて買えず車中泊となる「ワーキングホームレス」と化す。

こんな状況なので、ホームレスの多さは数でも人口比でも全米ワースト1位となり、IT企業はその高額賃金ゆえに不動産価格つり上げの"主犯"とみなされてGoogleはデモに遭いAppleもホームレス対策費の拠出を余儀なくされている。

人口過密地域で「普通の生活」を全員に保証するには

さて、元の問題に戻ろう。東京のように人口過密が原因で不動産等の需要過多に所得が吸われている場所では、「全員の所得を上げる」というオペレーションは労働者の生活を良くしない。地主の不労所得に吸われて終わるだけである。このようなことは、労組が出すべき提案ではないし、シリコンバレーのように民間側の活動で自然発生的になったならともかく(それでもデモの対象になるのだ)、公的介入しても何のメリットもないので、やるべきではない。

やるべきことがあるとすれば、人口過密の解消、地方への分散である。土地を皆で争うことがなければ、稼いだ金を地主の不労所得に吸われることもなくなるのである。労組なら、そこまで考えてほしい。





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