だから検査の効果を定量的に過信するなといお話なんだってば

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筆者は医療や行政法の専門家ではありません。単なる素人の感想なので医療情報としての信頼は置かないでください。基本的に自分が納得するためだけに書いたものであり、他者を納得させるために書いたものではありません。

上記の前回記事への反応で、検査が少ないほうがいいと主張している人のように扱う人もいたが、私の立場としては、最初に検査について書いた2020年3月の(根拠が霊感だった)ころから(エビデンスが付いた今でも)変わらず

1) 定性的には、検査キャパシティが増えるに越したことはない
2) 定量的には、現在なしえる世界最高クラスの検査量(1桁増)程度ではあなたの期待に応えるほどの効果は期待できない

というのが基本スタンスである(ので、例えば「第三波は検査を増強しておけば防げた」的な考えにはかなり懐疑的である)。

行動制限を回避するために検査で防ぐ?

大量検査有効論を見ていると、「大量検査で行動制限の必要がなくなる/減る」とする意見が散見される。これは前回記事で紹介した英国ジョンソン首相も言っていたことであり、大量検査に期待するところだろう。ただ、私はその効果量を過大視している人が多い、という意見である。

大量検査推進派である稲葉寿氏の論説をベースとすると、この論説で出ているグラフの検査カバー率kがこちらのツイートの解釈に従って日ごとのものだとすると、今の日本(やNZ)の現状(0.1%/日 ~ k=0.001)と、現在世界で到達しうる最高地点のイギリスやデンマーク(1%/日 ~ k=0.01)が下図の程度なので、日本の検査能力を10倍にしてイギリス並みに高めたとして、接触8割削減が7.5割削減になればいいほうではないかという程度で、先は長い。少なくとも感染抑止の主力にはなってもらえない数字である。

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量的に意味がありそうな5~10%/日のラインは、技術革新があればいつかは到達できそうだが、今回はその前にワクチンの接種が終わっていそうである。未知の感染症に対する大量検査法の迅速な確立は、次回の新興感染症に持ち越しの課題ではないかと思う。


現状なしえる検査レベルでの再生産数の削減は社会的距離政策を不要とするレベルとは程遠いため、制圧状態にある豪州や中国でも、コロナを忘れてもいいわけではないのは前回記事で書いた通りである。例えば豪州の保健当局の案内では「ロックダウン後の3段階に分けた日常への復帰」を掲げているが、最終3段階目でも'new normal'であるところの手指衛生、マスク着用義務、握手やハグの自粛、1.5mの間隔開けは続行される。

また前の記事でも書いた通り、いったんは3段階目に行っても少しでも感染者が出るとアラートレベルが簡単に上がるため、記事を書いている時点で保健当局(各州含む)のサイトではナイトクラブの閉鎖やホームパーティの制限令、レストランの客席の間引き命令、合唱の制限などが公告されている。

最近でも、長いロックダウンの後だいぶ落ち着いたはずのクリスマスの際のボンダイビーチでのパーティは、警察が強制解散、二桁の人数に1000ドルの罰金刑が課され、パーティに参加した英国籍者は国外追放処分にすると移民相が息巻いており、近隣住民も「私たちの適切な行動が一部の人の利己的な行為で無駄にされて悲しい」「あいつらは英国訛りだった」などと言っていたりして日本の往時の「県外民お断り」のような反応である(地元民も罰されているが)。豪州が緩和策をとれる場合もあるのは、このように思い切った引き締めをあっさり出来るからこその緩和策というところはある。

行動制限したくないという動機が先に来たために過信したのが英国の失敗であり、「検査で行動制限が減らせる」と思っている人はその点をよく考えてもらいたいところである。


何が効果的なのか?

検査を増やそうという動機のもう一つメジャーなものは、検査を受けたい時にいつでも受けたいと言う患者としての要望である。それはそれで理解できるのではあるが、ただ、それは感染拡大を防ぐとか死者を減らすといった目的を掲げるのであれば、それに対してリソースの割り振りを最適化できるのは医師や保健所であって、あなたの検査も受けたとは矛盾することがあることには留意する必要がある。

なお、私は3月の記事では、以下のように書いている。

a. 臨床的には、医師の求めに応じて検査できる程度は欲しい(が、医師は患者ほど検査を求めないと思われる)
b. 疫学的には定点観測能力を増強したい

治療の都合を考えたら検査は数が多いほうが良い。ただ、検査リソースに限りがある中では、治療か防疫かのいずれかで有効に働く使途が優先され、好きなように受けられるように、というのは優先度が低い、というのが私の意見である。

その点で言えば、別の項目で書いた重点監視対象に対する定期検査は防疫上のコストパフォーマンス的にも有効であろうとは考えている。緊急時用の検査リソースを作っておき、平時にそれを例えば介護施設や接客を伴う飲食店の定期監視に振り向ける、というのはありだろう。ただ、昨年夏の経験から言えば、接客を伴う飲食店とその従業員は検査を拒否する事例が多くあるため、ここはなにがしか強制したりする仕組みは必要そうである。


実効再生産数を落とす対策としては、負荷が比較的大きい限定ロックダウン(=広義のクラスター対策)より会食対策などもっとピンポイントの対策(=狭義のクラスター対策)を、という声もあり、まあそれは分かるというところだが(私もそのような記事は1年間ずっと書いている)、日本と世界がこの1年に経験したところでは、ホームパーティのような抜け道を塞ぐのはなかなか難しいところで、オーストラリアがつい2週間前もホームパーティに罰金をかけているような施策をどこまでできるか、と言う所かと思う。

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