2024年米大統領選挙感想戦:マイノリティのトランプ支持への転向について
2024年アメリカ大統領選では、トランプが選挙人・総得票数の両方で上回って勝利するとともに、議会選でも上院で共和党が過半数を奪還、下院でも伸長と、共和党が完全勝利する結果となった。
前回の大統領選では感想戦を書いたが、今回もそのリソースを使ってまた感想戦を書きたいと思う。今回もタイトルは全く同じでマイノリティの話である。今回もデータはNBCの出口調査を使い、2012(オバマvsロムニー)、2016、2020に加え2024を比較し、共和党側候補へ投票した比率をプロットした。トランプは《3回大統領選を戦った政治家》となり、3回分の比較はアメリカのこの10年の世相を否応なく描き出してしまう。
Race別
今回目立つのは、それなりにボリュームがあるラティーノ層で大幅に支持を伸ばしたことであろう。アジアンやその他でも支持を伸ばし、黒人以外のマイノリティでは民主党と共和党がほぼ互角の支持率となるところまで来ている。一方で白人の間ではわずかに支持を落としており、オバマ時代は民主党はマイノリティの代表という役割を果たしていたが、今やその役割はなくなったことが示唆される。民主党はBlack lives matterキャンペーンなどWokeカルチャーに基づくアイデンティティ・ポリティクスに傾倒してきただけに、皮肉な結果と言えよう。
年齢層別
年齢層別で見ると、しばらく前まで若者の民主党 vs 年配の共和党という構図が見られたが、今回の選挙では若年層、現役層がトランプにシフトし、高齢者はトランプから離れるという結果になった。これに関しては若年層ほどインフレの影響を受けやすかったためではないかと筆者は推測する。
所得別
所得別では勤労世帯の下半分でトランプが支持を伸ば一方で、高所得者側では支持を落とした。これは年齢とも交絡するので生データからでないと言いにくい面も多かろうが、ロシアのウクライナへの侵略に端を発するインフレが直撃した影響が大きいのではないかと思う(なおNBCの調査では「この4年で家計は良くなりましたか?」という質問項目があるが、毎回党派性に支配された結果しか出ないので参考にならない)。誰が原因かと言えばプーチンであって、別にバイデンのせいではないのだが、外因性の生活苦でもとりあえず現職が支持を落とすのは世界共通なので(日本でもそう)、その影響はありそうである。
学歴別
学歴別では、トランプになって一気に下げ今回は若干下げたかなという感じが、非大卒では今回は目立つレベルで上がっている。これも所得階級の下半分の労働者の分が大きいだろう。前節で説明した通りインフレに苦しんだ層であると考えられる。
学歴とRaceのクロス統計を取ると、非大卒の中でも白人はむしろトランプへの投票が減っており、非白人の非大卒がトランプ支持への傾倒で総合的な非大卒のトランプ支持増加という数字が作られていることが分かる。民主党を支持する人の中に「トランプを支持するのは低学歴だけ!バーカバーカ!」と叫んでいる人は少なくないが、その罵声は非大卒が多いマイノリティに直撃して彼らの反感を大いに買ったことは忘れないほうがいいだろう。
その他ピックアップ
そのほかを見ると、男女で極端に分かれているということはなく、トランプは女性の得票率も伸ばしているので、こちらでもアイデンティティ・ポリティクスの成果は出ていないようである。ただ、今年に関してはラティーノ票は男性のほうが伸びが大きく(ただし女性も結構伸びてはいる)、黒人では男性でトランプがさらに票を伸ばす一方女性では若干減った。
また宗教については、無神論者で若干トランプ支持が落ち、カトリックやその他の宗教で伸びている。ただしこれはラティーノやアジアンでの伸びと交絡している可能性が高いので、これだけ単品で論じるのはお勧めしない。
総評
トランプが戦った3回の大統領選を通じ、民主党側はアイデンティティ・ポリティクスを前面に出して戦ってきたが、その限界が完全に明らかになっているといえよう。白人もマイノリティもどんどんニュートラルに近づいており、女性も民主党になびくことなく、ハリスのWoke活動家的言動についていく人は減り続けている。
まあこれは当たり前の話で、オバマ → トランプ一期 → バイデンと政権が変わる中で、Race的マイノリティや女性の生活実感が良くなったかと言えばそんなことは全くないという人が大半だろう。バイデン期にはロシア起因のインフレが庶民にとって最大の問題であり、その直撃を食ったのが所得が低い労働者――若者やラティーノであり、むしろ働くマイノリティの支持を失った格好である。マイノリティのトランプ支持の話をすると「肉屋を支持する豚」という当てこすりが聞かれるものだが、申し訳ないが彼らは2回の政権交代を経て比べた後でこの選択を取ったわけで、彼らが「肉屋を支持する豚」言説を苦し紛れの浅はかな嘘だと判断したからこの結果がある、ということは留意すべきだろう。
今回の選挙結果がインフレによる現職批判が原因として、トランプがマイノリティや低所得者の救いになるとは限らないのだが、それでも何の期待も持てないハリスに比べたらサイコロを振ってみる価値はある、と判断されているのであろう。ハリスの失速も、アイデンティティ論やトランプ攻撃が目立つばかりで政策論が弱く、「ワタシは正義!ワタシはサイコー!」という自慰に浸りたいだけで口ばっかで何もしない典型的Woke活動家という以上のイメージを打ち出せずマイノリティからすら冷ややかな目で見られるようになり、支持者の間でよく見る学歴マウントも非大卒が多いマイノリティの怒りを買った、ということである(予備選挙を戦ってこなかった候補者ゆえ地力に劣る、というのは否めない)。
民主党のコア支持層がアイデンティティ・ポリティクスに浸り続けた結果、アメリカ史でも珍事と言える落選後からの復活大統領というポジションをトランプにプレゼントしたのであって、活動家たちは真剣に反省してもらいたいところである。なにしろ4年前と全く同じ総評が今回も通じてしまい、民主党の勝ちからトランプの勝ちに転じてしまうまで白昼夢に浸っていた責任を誰がとるのだろうかと他人事ながら気になるところである。