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2020年米大統領選挙感想戦:マイノリティのトランプ支持への転向について

筆者は選挙が始まる前に、「大方バイデンが取りそうで、ラストベルトもバイデン支持が増えているが、一方でトランプがマイノリティの支持を伸ばしているので、それ次第ではトランプが勝つ可能性がある」というような話を顔見知りにしていた。

前回はトランプ当選の1年前に2014予備選の結果などからトランプの躍進を予測する記事を書いていたが、今回はトランプの勝利の目は薄いと思っていたので事前には書かなかったものの、結局選挙の勝敗が確定する以前に上記の話の「答え合わせ」が出たので、ちょっと書いておきたいと思う。


多勢としては白人=トランプで非白人=バイデンだっだが、トランプは相対的に非白人の支持を稼いだ

実は今年夏ごろから、非白人のマイノリティがトランプ支持に傾いているという話が、BBCNYTで報じられていた。これはBLM運動が始まって以降に黒人がトランプ支持に流れだした、ということもあり、興味深い現象として注目していた。

今回の答え合わせでは、各社の出口調査で一貫して「多勢としてはトランプ=白人男性、バイデン=マイノリティという関係は変わらないが、相対的にトランプは白人男性の支持を減らし、代わりにマイノリティの非白人、女性の支持を集めた」という結果となった。参考として、NBCの2012(ロムニー)、20162020の比較を掲示する。

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また、他のいくつかの調査はラティーノ(ヒスパニック)でトランプへの転向が著しく、特にキューバ亡命者・関係者では民主党から共和党に多数派が入れ替わっていることが分かる。NYTの調査結果は可視化されているし、CNNの記事ロイターの記事BBCの可視化でもでもフロリダとテキサスをトランプが獲得したことにラティーノの影響が大きかったと言及されている。

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トランプはなぜラティーノの支持を回収できたのか?

さて、この結果については不思議に思われる方もおられよう。BLMを見ればわかる通りトランプは白人至上主義でマイノリティと対立しているはずではなかったか?と。ここからは筆者の推測になるが、おそらく「トランプは積極的に支持したいとは思わないが、BLMで表に立ったAntifaがもっと嫌だった」ということなのだと理解している。

ラティーノの場合は理由ははっきりしている。キューバやベネズエラから亡命してきた人々が、反共主義のためにトランプ支持に回った、というものである。ロイターの記事ではそれが明白に書かれているし、特にキューバ亡命者の多いフロリダでは全国に比べても特にラティーノのトランプ支持が高かった。

The Trump campaign made winning over Cuban-American voters in populous South Florida a top priority by emphasizing the administration’s hardline policy toward Cuba and Venezuela, and branding Biden and Democrats “socialists” in the manner of those countries’ regimes.

In Texas, four in 10 Hispanics voted for Trump, up from three in 10 in 2016, according to exit polls in that state.

The poll showed that about 11% of African Americans, 31% of Hispanics and 30% of Asian Americans voted for Trump, up 3 percentage points from 2016 among all three groups.

民主党派の選挙予測チームfivethirtyeightのGEOFFREY SKELLEY氏も、テキサスでほぼラティーノが占めるStarr郡で、トランプが一気に支持を増やしたことを報告している。

アメリカの極左はカストロやチャベスの(熱狂的)支持者が多く、BLMの渦中にシアトルで「自治区」を作ったメンバーもそのような親共産主義的メンバーが多かった。そのような人がバイデンを支持するのを見て、亡命者のラティーノが警戒感を募らせ、それがテキサスやフロリダでのトランプの勝利につながった、というのが現状の説明としてはもっともありそうだと考える。


トランプはなぜ黒人有権者の支持を回収できたのか?

黒人有権者のトランプ支持についても、BLM以降に報告されているものが多い。私は「BLMが原因で黒人有権者がトランプ支持に傾いた」という可能性は普通にあり得ると考えている。例えば警察解体は争点として取り上げられることが多かったが、NYTの調査では黒人有権者は警察を信用してはないが、かといって廃止するのにも反対であった(このあたりの記事も参考になるかもしれないA, B)。ギャラップの調査でも黒人やラティーノではむしろ警察巡回を増やしてほしがっていて、巡回減少を望む声も多少あるが全く多数派ではない、と言及されている。

これはある意味当たり前であって、黒人は不動産差別によって犯罪率が高い地域に住んでいるが、それはすなわち黒人犯罪者の被害を受ける人もまた黒人である――黒人被害者という弱者の中の弱者にとって、警察がなくなるのは困る、という考えがあったとしても不思議でも何でもないだろう。日本では年度末になると警察の検挙件数稼ぎで交通取締が難癖じみたものになりがちで運転者の不評を買うことが多いが、かといってそうして不平を述べる運転者が交通取締をなくせと思っているかと言えば全然そんなことはない、というのと同様の構図であろう。

その中で、黒人側から「警察廃止を訴えているのは白人の活動家だけだろう」といったような不満があることはたびたび記事にされていた。党派対立が優先事項になる白人活動家と、生活が優先される黒人層の間にずれが生じていたわけである。

But there are also a bunch of white people saying, “Let’s defund the police,” because they like the police as an enemy, but then when it comes to investing in black communities, they are silent.
―― "Police Reform Is Necessary. But How Do We Do It?" The New York Times Magazine
「オレは政治活動をしているわけじゃないんだ。(黒人の地位向上に)取り組み、実現できる人間なら、自分は誰とでも会って話す」――米レジェンドラッパーのアイス・キューブ「トランプ支持」表明した理由とは

Antifaは、おそらく極右サイトは検索から排除しているであろうgoogleですら、画像検索すると白人ばかりが映る。BLM運動のさなかにRiotかProtesterかという論争があったが、その手の映像でも白人が暴れて黒人が「おい、やりすぎだ」と抑えに回る映像はしばしば――というよりそのほうが多いくらいであった。

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マイノリティがトランプ支持に転向する素地は、いろいろあったように思える。アメリカの北西の端であるシアトルで反トランプ活動をしていたAngry White Menが、アメリカの南東の端のラティーノの考えを全く理解しておらず、フロリダでトランプを勝たせる結果になったとしても、それは不思議なことではない。

また、ワシントンポストの出口調査の結果を見ると、駆け込みで決めた人の中にトランプ支持派が多い。全体の5%にすぎない(全体の91%はとうに決めていた)のでボリュームとしては少数派だが、「積極的にトランプを支持しているわけではないが、どうしても決めろと言われたらトランプ」というタイプの消極的トランプ支持者が今回の選挙結果に影響したのではないか、というのが自分の感想である。

Decided in the last week (全体の 5%) トランプ 54% バイデン 40%
Decided before last week (全体の91%) トランプ 48% バイデン 50%


アイデンティティ・ポリティクスの限界

民主党は21世紀に入ってアイデンティティ・ポリティクスに力を入れ、一般的傾向として白人=共和党、非白人=民主党という傾向がオバマ時代に特に強まった。このことと、アメリカで非白人人口比率が増えていることを合わせ、将来的には人口構成の変化で民主党が安定して勝つのでは、というような予測、いわゆる“emerging Democratic majority” thesisがあった(例えば朝日新聞の記事)。

しかしながら、今回の選挙ではそうはならない可能性が示された。当たり前だが、マイノリティと呼ばれる人は多様であり、一枚岩などではない(一枚岩ではないからこそ少数派なのだから)。マイノリティどうしが対立したり、マイノリティとリベラルが対立するケースは当然にありうる。

今回の選挙ではっきり形に出たように、反共主義が第一というラティーノもいる。ラティーノは敬虔なカトリックも多く、宗教保守派である人も多い。ましてイスラムともなると、その教義から福音派と似通った特性を持っていることが多く、少なくともイスラムが多数派の国では中絶禁止や進化論教育禁止は多いくらいで、イスラムの数が多くなれば、そのような意見が通る可能性は高くなる。

アイデンティティ・ポリティクスの支持者は「民主党支持につなぎとめておけば、そのうち自分たちと同じ考えになるはずだ」という甘い考えを持っていた人が多いように思う。しかし、それが幻想にすぎないのではないか――ということを、今回のマイノリティの民主党離れは暗示しているように思われる。この点については、fivethirtyeightで語られていた下記の書き込みと意見をを同じくする。

GEOFFREY SKELLEY NOV. 4, 7:08 AM
Amelia, you couldn’t be more right to ponder this. This could present a counterargument to the “emerging Democratic majority” thesis, which argued that the direction of the country’s demographic growth would disproportionately help Democrats. One of the more fascinating examples of this is Starr County, Texas, along the U.S.-Mexico border, where 96 percent of the population is of Hispanic or Latino origin. In 2016, Clinton won Starr by about 60 points. But Biden only carried it by 5 points, a massive shift.

昨年にオバマがキャンセルカルチャーをやめるよう諭していたが、自分も同感である。アイデンティティ・ポリティクスはそろそろ限界ではなかろうか。

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