そこに道はあるから

奈良県十津川村の玉置神社というところに行ってきた。同世代の同僚女子に誘われたのだ。

十津川は温泉に行くために年に数回程度訪れる場所で、これまでも道路標示などでその神社の存在は知っていたが、とくに興味を持ったことはなかった。ただ、「来る人を選ぶ」「呼ばれた人しか行けない」という話を見聞きしたことがあり、せっかく誘われたのでどういうことか見てみようと訪れることになった。

十津川村を縦断する国道168号線から林道のような道に入り約30分。結構な急勾配を上っていく。私の車はMT車のジムニーなのでこういう悪路で真価を発揮するが、意外と3ナンバーの車とすれ違う。いけば行くほど「よくその車でこんな道登ってきたな」と感心するような車ばかりだ。しかも、今日の西日本は滝のような雨が降ると予報されていた通り、断続的にワイパーが効かないような雨が降っている。

ようやく駐車場にたどり着くと、こんな日にもかかわらず、結構な数の車がいて、参拝客たちが雨の中白い装束に着替えたりしていた。身を清めてお参りしようとしているのだ。大峰や熊野など、この界隈の寺社を参る際に白い服を着ようとする人は多い。
「みんな結構本気なんだな…」
私はモンベルの黄色いレインジャケットだ。

鳥居をくぐって山道に入ると、参拝を済ませた男性二人組が「こんにちは。」と笑顔で声をかけてくれた。近所のような気安さだ。こちらもこんにちは、と返して山道を進む。谷から上がってくる強風に煽られながら、登山道のような道を15分くらいあるくと、社殿が見えた。すでに何組かの先客がいる。

社殿の前には茅の輪が設えられていた。とくに意識はしていなかったが、今日は6月30日、夏越の祓えの日だ。神社では茅の輪が用意され、そこをくぐることで無病息災を願う。

青い茅の輪を右に左にそれぞれ回ってからなかをくぐり、本殿に参った。後から後から参拝客が訪れる。

裏手に神代杉があると書いてあったので、戸口から外に出た。杉の巨木が向こうにそびえているのが見える。立ち昇る炎のような姿だ。樹齢三千年だという。

このあたりには、奈良県で最も大きな杉の木もあるのだという。この広大な奈良県下の山林の中で、どうやって調べたのだろう。なにか、林野庁などで樹木の戸籍みたいなものがあって管理されているのだろうか。

社務所に行くと、お守りなどが売っていた。同僚がお守りを買っている間、他の参拝客と社務所の職員さんが親しげに話しているのを聞くとはなしに聞いていた。随分親しげで、お互い馴染みらしい。共通の知人が本を出したとか、神社を開くとかいう話をしていた。神社は新規で開くことができるのかと驚いた。

参拝を終え駐車場に戻るまでの間も、やはり出会う参拝客はみな「こんにちは」と笑顔で挨拶してくれた。神社とはそういう場所だったのだろうか。ちょっとここは変わった雰囲気の場所だ。

果たして、「来る人を選ぶ」という話は、つまり道の過酷さなんだろうなと思った。豪雨に見舞われがちなこの土地で、しかも林道を30分も上がって一気に標高1000mのエリアまでたどり着かないといけない。しかも、最も近い駅から車で二時間かかる。そもそもアクセス手段が限られているのだ。
「呼ばれた人しか行けない」というのも、これだけ大変な道なのでやはりたどり着いたらそれなりの意味付けをしたくなるものだろうと思う。そういったことにまったく無神経な私でも、呼ばれたかどうかはわからないけれど無事たどり着いたが、この天候では無理かもしれないと半ば諦めてもいた。

来た道を下り、十津川村役場の横にある道の駅でちょっと遅い昼食にした。二階に蕎麦処があり、手打ちそばが美味しかった。窓の下に流れる十津川の渓流を眺めながら食べた。

お腹を満たして満足してから、近くの温泉にいった。「滝の湯」という名の通り滝の脇にあり、露天風呂から眺められる。大雨なので大瀑布のような音がする。なお、この露天風呂は内風呂から外をでて階段を70段下ったところにあり、全裸で土砂降りの雨に打たれながら階段を往復する羽目になった。シチュエーションがおかしすぎて、爆笑しながら階段を下った。
源泉が55度と高温のため、雨で水温が下がりちょうどよかった。通常は、自分で水を足して温度調節しないと入れないお湯だ。ほんのり硫黄の匂いがするお湯に浸かって、大量に汗をかいたら低気圧の重だるさもなんとなくスッキリした。

帰路は随分早く感じた。十津川の入口にあたる五條に着く頃には、空が明るくなってきた。
上半期の最終日に、想像以上の大冒険となった。

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