春田はどうやってマリッジブルーを乗り越えたか

おっさんずラブ第六話。もう、もう、もう、泣けました。
一人でウエルカムボードを作りながら、出逢いの頃から今までを振り返って号泣する春田。号泣したのは春田だけではない。日本中のおっさんずラブファンが、春田と牧の愛の歴史を振り返って涙を流していたに違いない。
これまでの二人の歴史は、ファン一人一人の歴史でもあるのだ。
いろんなことがあったよねえ……と、二人のあれやこれやをなぞると、続編を待っていた長い年月の切ない想いまでがよみがえってくる。長かった…。本当に長かった。しかし待った甲斐があった。
 「マリッジブルー」という多くの人が経験する心の揺れと、それを乗り越えて行くプロセス。そして「結婚して幸せになるために大切なものは何か」という根源的な問いかけ。
一時間に満たない短い時間で、よくもまあこれだけのものを詰め込んだものである。
 春田がマリッジブルーになるなんて思ってもいなかった。しかし考えてみれば、確かに二人は全然違う。正反対の部分も多い。ホームパーティーやキャンプをしたい春田と、家に人を入れたくない牧。散らかし魔の春田と潔癖な牧。大雑把な春田と几帳面な牧。
さすがのノー天気な春田も不安を感じたのだろう。
実際、日本の離婚率は35%で三組にひと組は離婚するのだ。様々な理由で籍はそのままというカップルまで入れたら、おそらく半数どころか七割くらいは結婚に失敗しているのかもしれない。ちなみに私もそこに入っている(笑)。それくらい幸せな結婚はむずかしい。
離婚理由の第一位は性格の不一致だ。春田と牧の性格を考えると、一致している所は極めて少ないと言っていい。
 だけど私は、鉄平さんと同じく、一致していればうまく行くとは思えないのだ。もっと大事なものがある。
それを、二人はあの短い時間で教えてくれた。結婚までの歴史をなぞった時、その一つ一つのシーンや、眼差しや言葉を愛おしいと思えるかどうか。そして、何があっても「ずっと、一緒に歩いて行きたい!」と思えるかどうかにかかっていると思う。
 春田のマリッジブルーは、牧がどんなに大切な存在であるかを再認識するための大切なプロセスだったと思う。
牧はマリッジブルーに陥った春田を見ていてさぞかし辛かっただろう。
「本当に僕と結婚していいんですか?」
あの一言に込められた想いは深い。春田はその問いに百%完璧な答えを返したのだ。
「ずっと一緒に歩いて行きたい」
それ以上の愛の言葉があるだろうか。
ちなみに私もかなり重いマリッジブルーに陥った経験がある。見合いの日からずっと「この人と結婚して幸せになれるだろうか…」と不安になるようなことが多々あったのだ。そしてなんと式の前日にはマリッジブルーの総仕上げのように「コイツ、何ちゅう奴だ」と思うような出来事が起こった。
その日、私と夫は式場であるホテルに最後の確認のために出向いていた。ところが連日の疲れがたまっていたのか、私は打ち合わせ中に貧血を起こして倒れてしまったのだ。しかし夫は「なんばしようとよ。早よ、起きんね」とヘラヘラ笑うばかり。見かねたホテルのスタッフ(五十代の痩せて小柄な男性)がさっと私を抱きかかえ、別室のソファーに寝かせてくれた。
朦朧とする意識の中で聞こえたのは「救急車呼びましょうか」と訊くスタッフの声に「う〜ん」とだけ返した夫の声。しかもあろうことか、奴はそこでタバコを吸い出したのだ。何もしない夫に代わってそのスタッフがお水を飲ませてくれたり「貧血だと思うので、一口飲んでください」とワインをすすめてくれたりして一生懸命気づかってくれた。
 しばらくしてやっと起き上がることができるようになった私に、夫はタバコをスパスパ吸いながら開口一番こうぬかした。
「腹減った。なんか食いに行こう」
そしてその後、「大丈夫?」とか「気分はどう?」などと気づかう言葉は一言も口にしなかったのである。
「何食う?」と訊かれて、「お腹空いてないから、パフェくらいなら」と答えると、夫は「そんなシャレこいた若いおなごが行くような店行きたくない」と宣(のたま)った。
今なら「フザケンナ。オレだってシャレこいた若いおなごやで」と一喝するのだが、その頃はまだひ弱なおなごだったので、しぶしぶ夫の行きたい店に行き、夫はご機嫌でカツ丼を食べた。実にいまいましい思い出である。
その夜は悶々として眠れず、翌日式場であるホテルに、泣きながら入ったことを覚えている。春田と牧のように「ずっと一緒に歩いて行きたい」と思えないまま、結婚式を挙げてしまったのだ。
鉄平さんが言っていた「二人だけの価値観」が生まれることもなく、何十年もの月日が経ってしまったけれど、春田と牧のような幸せな結婚生活ではなかったからこそ、この二人の幸せな姿は本当に心にしみるのだ。
「幸せのおすそ分け」という言葉があるが、まさに二人から毎週たっぷりと幸せのおすそ分けをいただいている。心の中の空洞を埋めてもらってる感があるのは私だけではあるまい。感謝感謝である。
 もう、おっさんずラブしか勝たん!!!


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