菊さまと和泉さん、新キャラが作る新しい沼

 おっさんずラブ第四話。ごちそうさまでした!めちゃくちゃ萌えました。
一人で食事に行ったら、半径2メートルの大テーブルに、こぼれ落ちそうなくらいのご馳走が並んでいて「どうぞお召し上がりくださいませ」と言われたような、萌えの大盤振る舞いだった。
 菊さまと和泉さんの公安ズラブがすばらし過ぎて、この先この大量の萌えを消化できるか心配だ。いや、正直嬉しすぎる。このドラマの制作者の勇気と情熱にひれ伏したい。
 創作する者にとってこういう挑戦がいかに怖ろしく勇気がいることか、わかり過ぎて震えそうだ。
 おっさんずラブファンが求めているのは「春田と牧の日常」である。それを観せてもらえれば、ファンは100%大満足するのだ。それがわかっていて、「公安」「テロ組織」「銃で撃たれて絶命」などというぶっ飛んだ非日常と新キャラ二人をブッ込んだ制作者の勇気と恐怖たるや、今にもマグマが噴き出しそうな火口に立ってるみたいなものだろう。
 極めてリスキーで、一か八かの勝負だったはずだ。もしかしたら袋叩きにあうかもしれないと、怯えていたんじゃなかろうか。
 よくぞ勇気を持ってやってくれました! この設定と新キャラは大大大成功だ!
 一緒に四話をリアタイした娘達(姉妹漫画家キリエ)がしみじみと「続編に新キャラ出すって、大きな挑戦だよねえ。ものすごい勇気がいる」とつぶやいた。娘達には特別な思いがあったようだ。
 娘達の作品である『4分間のマリーゴールド』のドラマが放映中、娘達はその続編である『HERO』の連載を始めていた。
 続編とは言え、『4分間のマリーゴールド』のキャラクターはほとんど出てこない。主役の「みこと」は出てくるが、主役は九重祐(ここのえたすく)という消防士で、完全な新キャラである。
 4マリは、みことと義姉の悲恋がメインだったが、『HERO』は、みことと九重の友情物語がメインであり、バディーものだ。
 続編を描くにあたって、娘達には葛藤や恐怖など複雑な想いがあったようだ。だからなのだろう、二人は四話を観終わった時、惜しみない拍手を送っていた。
 ちなみに娘達の担当編集者の一人はこの『HERO』が一番好きだと言っている。
 それにしても菊さまと和泉さん、二人の新キャラの魅力的なこと! 菊さまの片思い、健気(けなげ)さは、結婚前の牧を彷彿(ほうふつ)とさせる。
 菊さまは、どの時点で和泉さんを好きになったのだろう。秋斗とは同期で親友だったわけだから当然「秘めた恋心」であったはずだ。秋斗が死ぬ前からなのか、それとも死んだ後からなのだ。どちらであってもそれぞれに切ない。
 だけど、後者(つまり今)の方が辛いだろうと思う。親友を失っただけでも一生消えない傷になっているのに、親友を一途に想い続ける和泉を片思いしているのだから。
 公安の上司から「和泉に関わるな」と言われても、一緒に住んでおむすび屋さんやって……。もう健気過ぎて一途過ぎて引く……いやいや引かない。こういう人、全世界の女性がたまらなく好きである。
 菊さまがかわいそうでかわいそうで、スペックの高いイケメンになってストーリーの中に入って行き、「そんな辛い恋やめて俺にしとけ!幸せにしてやる!」と叫びたい。
 だけど、菊さまはスペックなんて関係ないということはわかっている。和泉さんをどうしても諦めきれないのだ。そこがいい。たまらなくいい。このジレンマをなんとしよう。
 この恋は、どうなっていくのだろう。和泉さんが秋斗を忘れることは絶対にない。もうこの世にいない秋斗、自分の身代わりになって死んだ秋斗…。彼との思い出は更新されることはない。だから誰も勝てないのだ。
 この新しい沼も実に甘く切ない。おっさんずラブのすごさの一つは「沼」を複数提供してくれるところである。私なんぞ、全部の沼に落ちて悶(もだ)えている。感謝しかない。
 それにしても、秋斗と春田、二人とも田中圭さんが演じているわけだけど、同じ人間とは思えない。別人だ。田中圭さんの演技力の凄さを見せつけられた。
 そういえば、牧と達磨一家の頭(かしら)(HIGH &LOW)だって別人だ。
 このドラマはある意味ファンタジーだけれど、俳優陣の演技力がすご過ぎて、手が切れるようなリアリティーがある。この世界のどこかに、春田も牧も黒澤部長も武川さんも、天空不動産も、菊さまと和泉さんも、存在しているように思えてならない。いや、きっとどこかに存在しているのだ。もしかしたら隣町に、東京のどこかに、シンガポールのどこかに…。少なくとも、私たちの心の中には間違いなく存在している。

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