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僕の息子になってください

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母子家庭で育った秋臣は、苦労した母に親孝行をすることを人生の目的にして生きてきた。しかしある日突然母の余命を知らされる。 母の最後の願いはたった一つ。 「智夏に会いたい」  秋臣…
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#格差カップル

雷鳴の中で

 マグカップの中の琥珀色の液体に、口をすぼめて息を吹きかける叶人の横顔はどこか浮かない顔…

桐衣朝子
2か月前
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花火と嫉妬

 処置が早かったため、犬養がクラゲに刺された箇所は赤い腫れが少し残っただけですんだ。夕食…

桐衣朝子
3か月前
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海とクラゲと叶人と秋臣

 夕食のテーブルでLINEの着信音が鳴った。  秋臣は車エビの天ぷらをだし汁につけたままスマ…

桐衣朝子
3か月前
2

夏祭りの夜に

 車の中で叶人は一言も言葉を発しなかった。眠っているのかずっと目を閉じたままだ。  家か…

桐衣朝子
3か月前
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叶人、初めて親の話をする

「今日は稽古だから出かける」  朝、出勤する秋臣とすれ違いざまに叶人がささやいた。週三日…

桐衣朝子
3か月前
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事故的なキス

 家に帰り着くと、門の前にかかりつけの病院の車が止まっていた。毎日午前中に一度医師が往診…

桐衣朝子
4か月前
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秋臣、偽物の息子にゲイの苦悩を語る

「お父さん、起きて」  縁側のガラス戸から朝日が射し込んでいる。重たい瞼をやっと開けると、叶人が顔を覗き込んでいた。完全に覚醒していない秋臣は一瞬この状況がわからずうろたえてしまった。  この家での芝居の第一幕が無事に終わった安堵で泥のように眠っていたようだ。 「ああ、おはよう。眠れた?」 「朝ごはん作ったからおばあちゃんと一緒に食べようよ」 「え? 凪君が朝ごはんを作ったの?」  最後まで言わせず、叶人は人差し指を唇に当てた。 「智夏だよ」 「あ、ごめんごめん」  壁の時計