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キルギスからの便り(34)トヴォログとの再会
キルギスへ戻ったら真っ先に食べようと決めていたものがある。それは以前に紹介したトヴォログだ。
味のついていないぽろぽろとしたカッテージチーズ様のシンプルなトヴォログも良いが、何より最初に食べたかったのは、四角いパッケージの脂肪分の多いタイプだった。
4年前までのキルギス滞在時、この四角いトヴォログは価格面でも栄養面でも、ケーキほど罪悪感を感じずに楽しめる絶好のデザートだったが、日本ではそれにぴったり当てはまるものがなく、クリームチーズやカッテージチーズを目にするたびに、心の中で「トヴォログの方が好き」とつぶやいていた。
今回のキルギス行きの飛行機は、深夜1時を過ぎて到着した。翌朝の食事を心配して迎えの車がスーパーに寄ってくれたので、食料を調達できた。ただしその時点で現地での現金の持ち合わせはほとんどなかった。
そういう時に何を買うべきか。パンやプロテインバー、シリアル等だろうか。迎えの担当男性は「コーヒーやスープなんかを買っていけば」と言ってくれたが、その時すでに私の心は決まっていた。
冷蔵庫のない部屋で暮らすことは分かっているのに、向かったのは乳製品売り場。以前と変わらぬ包装紙に包まれた四角いトヴォログのシリーズをすぐに見つけた。
本当は甘みのないタイプにはちみつやドライフルーツなどを加えて食べるのが好きなのだが、予算的にそれらすべては買えない。そこで今回は単独でもデザートとして食べられるよう、甘み付けされて干しブドウも混ざったタイプを選んだ。
翌朝、飛行機に乗っていた延長で気持ちがまだ高ぶっているせいか、睡眠不足なのにそれなりの時刻にしっかりと目は開いたので、ベッドから出て着替え、トボログの袋だけを抱えて食堂へ向かった。
春休みで人けのない食堂に皿とスプーンを用意して一人腰をおろし、トヴォログの包みを開けた。
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一つを丸ごと食べたい気もしたが、日本では朝食をとらない習慣になっていたお腹がおどろくといけないので、半分だけ取りわけて皿に置き、食堂にあったパンを添えた。
![](https://assets.st-note.com/img/1711530278164-X1XewD9E0W.jpg)
そして大ぶりのスプーンで掬って口に入れると、濃厚でありつつしつこくない、チーズでもケーキでもない、確かにこの感覚だったと納得できる味だった。
キルギスの地に足を踏み入れてから初めての食事を、日本で決心していた通り、トヴォログで幕開けできたことに満足し悦に入っていたが、やはりそこはキルギス。好物との静かな一人きりの時間を長くは持たせてくれなかった。
窓の外に人の姿が見えて足音が聞こえ、やがてドアが開いて女性が入ってきた。食堂の調理の担当者で4年ぶりのお顔である。
キルギス初日は彼女を筆頭に再会の顔ぶれが次から次へと私の前に現れ、コミュニケーションの波がどどっと押し寄せ、トヴォログと再会できた喜びの余韻はすぐに消えていった。
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