Кэико

月刊経済誌の記者・編集者を経て2018年より中央アジアで日本語を教える。2020年春にコロナ禍で帰国。2024年3月に再渡航。

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月刊経済誌の記者・編集者を経て2018年より中央アジアで日本語を教える。2020年春にコロナ禍で帰国。2024年3月に再渡航。

最近の記事

キルギスからの便り(40) 鉄道

 線路は続くよどこまでも―  そう、大陸を走る鉄道は果てしない。キルギスの鉄道はモスクワまで続いている。島国日本で育った私には、壮大さを感じずにはいられない。  が、実際のところキルギスにおける鉄道の存在感はきわめて小さい。  人々の日常の足は「マルシュルートカ(маршрутка)」と呼ばれる乗り合いバスか自家用車で、生まれてから一度も鉄道を使ったことがないという人も多い。  首都ビシュケクの中心部から少し南にある中央駅(正式には中央駅という名前ではないが、便宜上こう記し

    • キルギスからの便り(39)カーシャ

       砂糖で甘く味のついた白いご飯、というとどんなものを想像するだろう。    多くの日本人は「甘いご飯なんて食べられない」と思うかもしれない。大福や求肥など米が和菓子に加工されたら平気で食べるのだが…。  私が働いていたキルギスの学校では、昼食とともに朝食も提供されていた。児童・生徒は登校後すぐあるいは1時間目の終了後に食堂へ向かう。  メニューは9割がたが1杯の「カーシャ(каша)」だった。カーシャはロシアや東欧などで広く食べられる粥のことで、旧ソ連だった中央アジアでもポ

      • キルギスからの便り(38) アルスタンバプのくるみの森

         広大なくるみの森―そう聞いてどんな風景を思い浮かべるだろうか。  それはキルギス南部の村、アルスタンバプにある。ぶなや白樺の森しか見たことがない私には、現地へ行くまで、まったく想像ができない森だった。    日本のゴールデンウィークと重なる5月1日~5日はキルギスでも連休だ。今春の短いキルギス滞在中、この休みを利用して同国第2の都市オシと第3の都市ジャララバードを訪れることにした。同僚であるキルギス人の日本語の先生にそのことを話すと、「ジャララバードの近くのアルスタンバプへ

        • キルギスからの便り(37)バーニャ

           先週金曜日、授業が終わった夕方、意を決してバーニャ(баня)ヘ行った。バーニャはロシア式サウナのこと。サウナブームの日本で有名なのはフィンランド式だが、ロシアもサウナの長い歴史を持ち、そしてキルギスも旧ソ連だったことからサウナの習慣はある。  4年前までのキルギス滞在中は、風呂のないシャワー生活が続いてもそれ程、苦にならなかったが、今回はこちらへ来て1か月もたたないうちに湯船のない生活に我慢ができなくなった。  コロナ禍以後の日本で、ゆっくり湯船につかることや温泉に入る

          キルギスからの便り(36)人前で「私」を慎む国さらけ出す国

           トヴォログや停電に出合うより早く、キルギスへ向かう移動中にすでに現地の空気を実感させられる場面があった。   話は前後したが、4年ぶりとなった今回の日本―キルギス間の移動について触れながら、その出来事をつづりたい。  過去2018年、19年にキルギスヘわたる際は、いずれもロシアの航空会社S7を使って、成田からノボシビルスク経由で首都ビシュケクへ入っていたが、ロシアのウクライナ侵攻後である今回は、韓国のLCC(格安航空会社)ティーウェイ航空を利用した。乗り継ぎは仁川(インチ

          キルギスからの便り(36)人前で「私」を慎む国さらけ出す国

          キルギスからの便り(35)風雨で停電

           懐かしい場所へ戻ってきた実感を持たせてくれるうれしいものの代表がトヴォログだとしたら、うれしくないことの代表もある。それは停電と断水だ。  キルギスへ着いた3日後の夕方、散歩に行こうと玄関を出ると、校庭の大木や街路樹が大きく揺れて、木々の葉が舞い上がり、砂ぼこりで空気はよどみ、強風がビュービューと音を立てて吹いていた。まさかこんな荒れているとは。  日本にいれば「今日は傘がいるかな、寒いかな暑いかな…」と天気予報を調べているが、キルギスでは大抵晴れかくもりなので空模様を気に

          キルギスからの便り(35)風雨で停電

          キルギスからの便り(34)トヴォログとの再会

           キルギスへ戻ったら真っ先に食べようと決めていたものがある。それは以前に紹介したトヴォログだ。  味のついていないぽろぽろとしたカッテージチーズ様のシンプルなトヴォログも良いが、何より最初に食べたかったのは、四角いパッケージの脂肪分の多いタイプだった。  4年前までのキルギス滞在時、この四角いトヴォログは価格面でも栄養面でも、ケーキほど罪悪感を感じずに楽しめる絶好のデザートだったが、日本ではそれにぴったり当てはまるものがなく、クリームチーズやカッテージチーズを目にするたびに

          キルギスからの便り(34)トヴォログとの再会

          キルギスからの便り(33)ここは「砂糖」市⁈

          投稿日 2022年10月28日  無関係に思われたふたつの出来事が、実は同じ事象につながっていた―  推理小説の謎解きのようだが、そんなことはままある。別々に出会った友人が知り合い同士だったとか、異なる名前で呼ばれていて別物と思っていた物が同一の種類を指していた等々…。  私がキルギスで出合ったふたつの謎が、ひとつの事柄につながっていたと気付いたのは、1年半を経てからだった。  ひとつ目の謎はこの写真である。1年目に現地へ赴任して間もなく、学校へ向かうバスの中から、謎の

          キルギスからの便り(33)ここは「砂糖」市⁈

          キルギスからの便り(32) ビーツ

          投稿日 2022年8月11日  行動制限のない久しぶりの夏を旅行やイベントで過ごす人も多いようだが、新型コロナの感染者数はおどろくべき速度で増えていて「羽根を伸ばし続けていて大丈夫なのか」という不安も拭えない。  私はこの夏も遠くへ行かずに、身近な所で楽しみを味わっている。今春から畑を借りて始めた、ささやかな野菜作りだ。猛暑続きを理由にろくに手入れにも行かず、草は生えるし、とうもろこしは鳥に食べられるしと散々なありさまだが、できた作物がどんなに少量で見栄えが悪くても、自ら

          キルギスからの便り(32) ビーツ

          キルギスからの便り(31)バザールの魚売り場

          投稿日 2022年6月28日   バザールでは現地の人々の日常の生活が見える。食品や雑貨など彼らにとっては当たり前の品々が並んでいるのだが、外国人の目から見ると「何これ?!」とおどろくような光景も時々ある。キルギスからの便り(24)では羊の頭にびっくりした事をお伝えしたが、今回の写真のような売り場も日本ではほぼ見かけない。  ご覧の通り、魚が並んでいるのでこれは魚屋だ。キルギスは海のない国で、牛や羊など肉を中心にした食生活なので、バザールにも魚売り場は少なく、この店も時々

          キルギスからの便り(31)バザールの魚売り場

          キルギスからの便り(30)戦勝記念日

          2022年5月5日  ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続くなか、プーチン大統領が5月9日の戦勝記念日にどのように振舞うか、耳目を集めている。ここでいう「戦勝」とは、ロシアで「大祖国戦争」と呼ばれている対独戦で、1945年に ナチス・ドイツが降伏しソ連が勝利したことを指す。旧ソ連に属していた中央アジア各地からも兵士が送られたことから、キルギスでもこの日は祝日だ。  第二次世界大戦で敗戦国となって以降の日本人にとって、「戦勝」を記念する祝日の存在、そしてその日に「国民の愛

          キルギスからの便り(30)戦勝記念日

          キルギスからの便り(29)パスハ

          投稿日 2022年3月29  冬送りの行事「マースレニッツァ」を紹介した前回に続き、今回はマースレニッツアの7週間後に行われる復活祭の日の思い出を記してみたい。日本で復活祭は英語の呼称「イースター」として知られているが、ロシアなどキリスト教東方正教会ではギリシア語由来の「パスハ(пасха)」と呼ばれている。  パスハは春分を過ぎた最初の満月の直後の日曜と決まっていて、2022年は4月24日である。前回も記したように、西方教会はグレゴリオ暦、東方正教会はユリウス暦を採用し

          キルギスからの便り(29)パスハ

          キルギスからの便り(28) マースレニッツァ

          2022年3月1日  今年の冬は寒い日が長く続き、春は本当に来るのかと不安になった。寒さの厳しい地域の人々が春を待ち遠しく思う気持ちは日本も外国も変わらない。  私がキルギスへ渡って初めて知った行事に「マースレニッツァ(масленица)」がある。西欧諸国の「謝肉祭(カーニバル)」に相当し、長い冬に別れを告げ春の到来を祝うお祭りだ。名称はバターや油を意味する「マースラ(масло)」に由来し、訳すなら「バター祭り」だろうか。  今では東方正教会の行事だが、古くスラブ地

          キルギスからの便り(28) マースレニッツァ

          キルギスからの便り(27) バスで国境を越える―キルギスからカザフスタン

          投稿日 2022年1月20日   民間人が宇宙旅行をできる昨今、お金さえあればどこへだって行けるように思える。コロナ禍前は世界最強と呼ばれる日本のパスポートを携えていれば、ほぼ世界中を飛び回ることができた。  しかしどんなに恵まれた日本人でも、いや厳密に言うと「日本で生まれた人」には99%不可能なことがある。それは生まれて初めての国境越えを陸路で行うことだ。島国の日本にとって外国はすなわち海外。自国を出るには必ず飛行機か船で海を渡らなければいけない。 生まれて初めて陸路

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          キルギスからの便り(26) カレンダー活用法

          投稿日 2021年12月24日  暮れも押し迫った。新しい年のカレンダーを用意する頃だ。  文具や紙製品が豊富で、1年先の予定までしっかり立てる日本では書店や雑貨店に多種多様なカレンダーが並んでいる。キルギスで売られているカレンダーの種類はごくわずかだし、部屋にかけておく必要性もまったく感じなかったので、日本の売り場を見るとカレンダー需要の高さに改めて感心する。   ところでカレンダーにはメモできるように余白がとってあるものが多いが、私は予定を手帳に書き込んでいるので、自

          キルギスからの便り(26) カレンダー活用法

          キルギスからの便り(25) スメタナ

          投稿日 2021年11月11日  キルギスからの便り(22)でカッテージチーズに似た食べ物の「トヴォログ」について記したが、今回はもうひとつ、こちらにない乳製品「スメタナ」を紹介したい。日本ではスメタナを「サワークリーム」と説明されるが、トヴォログがカッテージチーズと同じではないように、スメタナもまたサワークリームとイコールではない。  詳しい製法を知らないのでいい加減なことは書けないけれど、バザールでスメタナを売っている店頭には必ずトヴォログも置いてあり、スメタナの副産

          キルギスからの便り(25) スメタナ