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編プロからの孫請けの話

版元からの仕事と編プロからの仕事

フリーランスの教材編集者が仕事を受注するとき,発注元には版元(出版社など)と編集プロダクション(編プロ)があります。

版元は原則として社内で教材の編集作業を行いますが,繁忙期には社内ですべての教材の編集作業ができない場合があります。それでも教材をリリースしないといけませんから,執筆・編集・校正の一部または全部を編プロやフリーランスの教材編集者に外注します。

ただし,版元の繁忙期は編プロやフリーランスも忙しいことが多いです。フリーランスは忙しくてできない仕事はふつう断りますが,編プロは仕事を断らず,いったん受注して孫請け先の別の編プロやフリーランスに発注するケースがあります。

孫請けに出す前提で受注する編プロ

以前,面識のない編プロから高校理科の仕事の打診が来ました。この編プロによると,版元から高校理科の仕事の打診が来たものの,高校理科の制作ノウハウがなく,版元を助けるために高校理科ができる外注先を探しているとのこと。編プロはほかにもいっぱいあるのですから,ノウハウがないなら,打診を断ればいいだけですけどね。私(中村)はもちろん断りました。

また,かつて私が編プロに勤務していたとき,
「うちが版元からの仕事を断っても,ほかの編プロに発注されるだけだから,まずうちで受注して,うちから編プロに発注すればいい」
と,上司を通じて上層部の意向を聞かされたこともあります。

編プロの中には,とにかく仕事を断るのを嫌がり,できるかできないかに関係なく,版元から仕事の話があればとりあえず受注するケースがあります。そのせいで,過去には版元と編プロの間でのトラブルの話も聞きました。

契約書にたいてい書いてあること

仕事を受注するとき,発注書が送られてくるだけでなく,契約書を交わす場合があります。契約書にはたいてい「無断での再委託を禁止する」との条項があります。要するに,勝手に孫請けに仕事を出すなという意味です。

ただ,版元が編プロに仕事を発注した後,版元から見て仕事の流れがブラックボックス化していることが多いです。ブラックボックス化は教材出版の業界だけの話ではありません。2022年に尼崎市で市民の個人情報が入ったUSBメモリーの紛失が発覚したとき,紛失したのが再々委託先の人だったということがありました。尼崎市は発注後の仕事の流れを把握していなかったようです。

下請け側が契約書をちゃんと読んでいないと,なんの罪意識もなく無断で再委託を行うのかもしれません。ちなみに弊社が契約書を交わすとき,外部の執筆者や校正者の力を借りなければいけない場合は,事前に確認しています。

編プロの孫請けの仕事はしない

私は原則として版元から直接受注した仕事のみをしていて,ごく一部の例外を除いて編プロからの孫請けの仕事はしていません。

大きな理由として,版元と私の間に編プロが入ると,版元の意図がつかみにくいからです。版元から直接仕事の発注を受けた場合,打ち合わせでは作業内容だけでなく企画意図や教材の対象層なども聞くことができ,どのような教材にすればいいかがイメージしやすいです。

しかし,版元との間に編プロが入ると,版元側の意図がわからないまま作業内容だけ知らされることになります。間に入る担当者によっては,伝言ゲームになる可能性もありますし,版元とのやりとりにも時間がかかります。

孫請け中心のフリーランスもいる

フリーランスによっては,編プロからの孫請けを中心に仕事をする場合もあるようです。孫請けの仕事にメリットを見出しているようです。

フリーランスは自分で仕事を探さないといけません。一方,編プロはさまざまな版元との取引があります。フリーランス自身に版元とのツテがなくても,編プロからの孫請けだと複数の版元の仕事ができます。

また,フリーランスの場合,版元とさまざまな交渉事があります。ただ,交渉事が苦手というフリーランスは意外にいます。面倒な交渉事はなじみの編プロがすべてやってくれるため,孫請けを中心に仕事をしているというフリーランスの話も聞いたことがあります。

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