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教材編集の業界でのハロー効果の話


ハロー効果とは

マーケティング用語でハロー効果と呼ばれるものがあります。例えば,インフルエンサーがSNSで「これはいい商品だから使っている」と紹介すると,使っていないのにその商品の品質が高いと認識したり,たくさんの有名人が通っている飲食店は,行ったことがなくても料理がおいしいと認識したりすることを指します。

本来は「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」のようなネガティブなケースもハロー効果と言うようですが,マーケティングでは上記のようなポジティブな印象を与えるケースで使われることがほとんどです。後光効果と呼ばれることもあります。

教材編集の業界でのハロー効果の例

教材編集者になって3年目か4年目のころ,紹介された先生に仕事を依頼することになりました。先生にお会いして仕事の依頼をしたあと,いろいろと話をしていると,先生から,
「現在は全国大学入試問題正解赤本の執筆をしています」
と言われました。私(中村)は先生の原稿を1文字も読んでいないのに,
「とても能力の高い先生だ」
と思ったのでした。当時の私が全国大学入試問題正解や赤本といった過去問集に好印象をもっていたことが,そのまま先生への高評価につながった典型的なハロー効果です。

また,独立後,取引先が手配した原稿の内容が良くなかったので,取引先の担当者に伝えたところ,
「でも,この先生は教科書会社の仕事もしているのですけどねぇ」
と反論されたのでした。取引先の担当者の教科書への信頼度の高さがそのまま先生への高評価につながったようで,こちらも典型的なハロー効果です。

教科書や過去問集のハロー効果の実態

独立後,教科書会社の仕事や全国大学入試問題などの過去問集の仕事にかかわったことがあります。そのとき知ったのですが,教科書会社と過去問集の仕事に共通するのは,執筆者の先生の人数が多いことです。

教科書の巻末にある奥付を見ると,たくさんの先生の名前が載っています。それに,教科書会社は教科書だけでなく問題集も発行しており,1冊の問題集に10人前後の先生が分担して執筆していました。また,過去問集の場合,全国の大学入試問題の解答解説を短期間で制作しないといけませんから,全国各地の先生が原稿を執筆しています。

もちろん能力の高い先生もいるのですが,教科書や過去問集の執筆をしているというだけで,無条件で執筆能力が高いわけではないようです。

ハロー効果を利用することもある

弊社は社員2名の小さな会社です。そのせいか,版元から声がかかって訪問すると,弊社の編集能力を信用していないのでは?と感じたことが何度かありました。

このような場合,合間の雑談のときに,
「現在は○○社と□□社の仕事をしているんですよ」
などと有名な取引先の名前を複数出して,ハロー効果を利用しました。本当はこんなことをしたくないのですが,高品質の仕事を行う自信はあるので,まずは信用してもらうことを優先しました。

ハロー効果によるわらしべ長者

独立直後はとにかく取引先を増やす努力をしました。最初は,教材出版社のトライアル(採用試験)を受けたり,会社員時代のつながりやブログをきっかけに声をかけてもらったりして,取引先を増やしていきました。

そのうち,著名な書店販売教材の出版社や教科書会社の仕事を受注できるようになりました。次は,
「この出版社の仕事もしています」
とハロー効果を使って,さらに取引先を増やしていきました。

ところで,「わらしべ長者」というおとぎ話があります。わらしべを物々交換していくうちに,どんどん高価なものになっていくというストーリーです。ハロー効果を利用して,より大きな取引先の仕事を受注していく過程は,「わらしべ長者」に似ているかもしれません。

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