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著作権侵害を理解してもらえない話


さまざまな言い訳を耳にした

小中学生向け教材は教材専門のライターが原稿を執筆しますが,高校生向け教材の場合,学校や予備校の先生が原稿を執筆することがほとんどです。学校や予備校の先生の中には,著作権に対する意識が低い人もいます。

私(中村)が知っている話で言えば,原稿執筆を依頼したことはないですが,
「市販教材の『~だ。』を『~である。』に書き換えれば,オリジナル原稿になる」
と大まじめに言った先生がいました。もちろんアウトです。
「2冊の参考書の原稿をそのままくっつければ,オリジナル原稿になる」
と言った先生もいました。2か所から盗用しただけです。

私がやりとりした先生にはいませんでしたが,原稿を盗用した先生のよくする言い訳が,
「たまたま似ただけ」
「だれが書いても同じ原稿になる」
だそうです。教材編集者は何人もの執筆者の原稿を見てきているので,だれが執筆しても似てしまう箇所とそうでない箇所の区別はつきます。そのため,たまたま似ただけか,盗用したかはすぐわかります。

取引先が模試の作問を依頼すると…

独立後,仕事のやりとりがあった予備校の話です。予備校の担当者がある先生に模擬試験(模試)の作問を依頼したところ,しばらくした先生から送られてきた原稿は見たことのある問題だったとのこと。確認すると,予備校の授業テキストに載っている入試問題とほぼ同じだったそうです。

オリジナル問題の作問を依頼していたにもかかわらず,先生は入試問題を少し改題しただけでオリジナル問題として送ってきたそうです。その原稿だけでなく,過去に送られてきた原稿も,入試問題だったらしいです。この先生は作問から外され,その後,暫定的に弊社が問題を手配することになったのでした。

自分の書いた原稿を…(その1)

編集プロダクション(編プロ)に勤務していたころ,私とは別の科目の先輩編集者の話です。執筆者から送られてきた原稿を確認したところ,他社の紙面のコピーがそのまま貼られていたとのこと。先輩があわてて執筆者に連絡をとったところ,執筆者からこう言われたそうです。
「その原稿は私が書いたものだから大丈夫」。

教材の場合,原稿はたいてい版元(出版社などのこと)の買い取りです。つまり,原稿の著作権が執筆者から版元に譲渡されます。当時,私がいた編集部では執筆依頼時に書面と口頭で伝えていましたし,コピーが貼られていた教材の版元も同じはずです。そうなると,いくら執筆者が書いた原稿であっても,許可なく使うことはできません。

自分の書いた原稿を…(その2)

独立後,ある版元の仕事をしたときのことです。版元の担当者は私もよく知っている物理の先生に200ページ以上の原稿執筆を依頼していました。

この教材のリリース後,この版元の担当者は別の物理教材の原稿執筆も同じ先生に依頼しようとしていました。私は,
「200ページ以上書いた後だから,ネタ切れで原稿を書けませんよ」
と忠告したものの聞き入れられず,担当者はこの先生に原稿執筆を依頼しました。

この教材は私が編集の仕事を受注していたので,しばらくして担当者経由で執筆者から原稿の一部が届きました。執筆者はいつも通りに執筆しただけなのでしょうが,以前200ページ以上書いた教材と比べると,文言までほぼ同じでした。

この件は著作権侵害とは言えないかもしれませんが,版元の担当者に伝えると,版元の担当者は私の忠告を忘れたようで,執筆者の先生を批判しだしたのでした。問題があるのは,先生ではなく担当者のほうですけどね。

生徒にコピーを配らないように言うと…

私が独立前に予備校で勤務していたころの話です。授業を担当している先生方に,市販されている出版物をコピーして生徒に渡さないようにと注意事項を説明したところ,ある先生から質問が出ました。
「そのままコピーするのがダメなら,手で書き写して配るならいいですか?」。

もちろんダメです。著作権は創作性のある内容に発生するものです。内容を書き写しているので,コピーして配ると著作権侵害です。

「著作権侵害」を理解してもらえないとき

学校や予備校の先生方に「著作権侵害」と言ってもなかなか理解してもらえません。ただ,著作権侵害をすぐに理解してもらえる言葉があります。

それは「パクリ」という言葉です。「パクリだけはやめてくださいね」と言うと著作権侵害の意味をすぐ理解してもらえますし,先生方はプライドが高く「パクリ」とは言われたくないので,著作権を侵害することはまずなくなります。

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