御堂狂四郎のタイマー談話

 おや。
 ソファーに横になっていると、スピーカーから流れてくるYUKIの歌が、やけに鮮明に聴こえている事に気付いた。

 これはすごい!それまでは気付かなかった部分に気付いたり、あの時のアレと今のコレの共通点に気付いたりする。
 どうせすぐに忘れるんだろうけど、今この瞬間に限れば大発見なのだ。

 トロみのある煙の向こうで、ヒロがニヤニヤとしまりの無い顔でこっちを見ている。なにがそんなにおもしろいの?と聞くと、プッと吹き出し、ゲラゲラ笑い出した。ねぇ、何がそんなにおもしろいの。
 ヒロがこう言った。いや、御堂君があんまりヘラヘラしてるもんだから、つられちゃって。
 なんだそりゃ、俺も思わず笑った。

 ヒロはうすら笑いに落ち着いて、妙な事をいいだした。クスクス、人間って何のために生きてるの?俺は少し考えてから、こう言った。

 二つのテーマに分けようか、ヒヒヒ。なぜって?あの、例えば、ほら、俺とかお前の、生きてる意味とか、そういう個人的なテーマだと人それぞれ違ってくるからさ、そんな質問意味が無いだろ?お前なら自由を感じる為とか、俺だったら暴く為に生きてるとか、そういうのになるじゃない。

 うん、そうだね。ところで暴く為って何?ウヒャヒャヒャ!

 笑うなよ、俺も笑っちゃうじゃないか。ヒヒヒ。あの、だからさ、生物としての人間、つまり、個人じゃなくてさ、オールフォアワン・ワンフォアオールとして見た時の、人間がなぜ生きるのかを教えてあげようか?

 いや、いい。アハハハハ!オールフォアワンって何?ヒヒヒヒヒ!

 いやだからさ、人間っていう生き物が何の為に生きているかについて教えてやろうと言ってるんだ。

 えっ!本当にそんな事が分かるの?

 分かるとも。クスクスクス。

 じゃあ、是非ともお聞かせ願いたいですなぁ!ギャハハハハハハ!
 
 バカ笑いしてるヒロ、聞いてるのか聞いてないのか分からないけど、俺は言った。
 
 それはだね、電気を作る為に生きているのさ。

 なんだって?!で、電気?こりゃ傑作だよ!アハハハハ!

 いや、ほんとなんだよ。

 ククク、というと?
 
 その時代時代に必ず生きている理由というか、目標が有るんだ。例えば、原始時代なら食べる事を覚える為だ。人間は花みたいに光合成や水で生きていく事はできないし、魚みたいに目の前に有る物をパクつきゃ良いってわけでもない。食べられる物を選んで、食べられる形で食べなきゃダメだ。人間はそこでそれを覚えたんだ。

 へぇ、そうなんだ!

 そして時代が流れて、今の人間の目標は電気を命に置き換えて不老不死になる事なんだ。

 ふうむ?

 人間は火を電気に換え、水を電気に換え、風を電気に換え、原子を電気に換えたでしょう?

 なんで敬語になるの?ヒヒヒヒヒ!

 いや、そんなのどうでもいいじゃない。換えただろう?

 んー、ハハハ、言われてみればそうだね。

 だからそう、これは電気を全てに置き換える用意なんだ。ククク。人間は原始時代から江戸時代に至るまで獲る事と食べる事と守る事を、命を賭けて進歩させてきたんだよ、ヒヒ。

 なぁるほどぉ、アハハ。

 だ、だからさ、ククク。そこでだね。明治時代頃からは…、今度は、食べなくても良い、減らない朽ちない変わらない肉体を得る事を目的としているんだよ。

 えへへ、なんで?

 なんでとかは無いんだ。お前、その、川に葉っぱを浮かべて、ある地点に流れ着いて、それがなんでって説明しようと思うかい?

 思うとも!ウヒャヒャ!

 一生説明してろ!ギャハハハ!

 うそだよ、うそ!それでそれで?ウヒヒ。

 そうそう、そういうモンなんだって。それで、えーと、なんだったっけ?

 人間が偶然たまたま無意識のうちに、電気で不老不死を目指していて?

 ああ、そうだ。人間てのはその出来具合からして、食ってヤッて寝てるだけじゃダメ、だから食い物を作らなきゃいけない。でも食い物には限りがあるし、食べて毒まで喰らうなんて不完全な方法で生きて行く事はできない。いくらでも作れる物といえば、電気だ。そして、一番怖いのは餓死する事だ。だからね、ヒヒヒヒヒ。身体も栄養も電気で賄えるようにする事、それが人間の生きている理由なんだよ!アッハッハ!金を作ったのも電気のため、科学はみんな電気のため、俺達の未来はサイボーグなんだ。実際、地球はもうサイボーグ状態じゃないか。地下鉄とか光ファイバーケーブルとか、飛行機も、血管そのものじゃない。な!?

 ファー、ヒヒヒヒヒ!こんなバカばかしい話、初めてっ、聞いた!ウヒャヒャヒャ!
 
 人間の持ってる時間の流れは、発電機の水車を回す水流ってことなのだよ。
 
 なんでそんな事するの?ククク。
 
 なんでとかは無いんだ。お前、ロウソクの火がゆらゆらゆれて、ある一点をなぞったのを、なんでって説明するか?
 
 するする!
  
 なんで?
 
 ウヘヘヘ!じゃあ僕も御堂君もサイボーグになるの?
 
 残念ながら俺達の生きてる間はそうはならないんじゃないかなぁ、アハハ。
 
 ほー!そしたらさ、御堂君の言う電気時代が到来して、次は何をするの?ヒヒヒヒ。
 
 さっきのやつ、もうちょっとちょうだい。
 
 え?
 
 もうちょっとくれよ。
 
 もうないんだ、ヒヒヒ。
  
 ああ、ほうなの。ふへへへ。ほれで、さっきの続き?えーー、そうそう。次の時代の、目標ね。多分、その頃になると移動したり考えたりする必要が無くなってくるだろうから…。なんにもしないんじゃないかなぁ。ククク。いや、それはない、か。戦争でもしてるんじゃないの?PUBGみたいに。遊びで。
 
 PUBG!?ゲームの?
  
 そ、人間の進化・進歩はPUBGを目指してるんだ。
 
 PUBGか…。なんで?
  
 なんでとかは無いんだ。お前、風に葉っぱを乗せて飛んでいって、ある地点に落ちたのを、なんでって説明するか?
 
 しますとも!ウヒャヒャ!
  
 バーカ!アハハハハハ!
 
 バカボン!ウッヒャヒャヒャヒャ!!
 
 バ…バカボン…。ひひひひひひひ!!
 
 〜終わり〜
 
 


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