四月五日 龍の子

龍の腹の裏で
生まれた雀の子

空を飛びたくないと言う雀の子
風が冷たいと泣く雀の子
地べたの土の匂いが恋しいという雀の子
踏みつけられて見下されたままでいたいという雀の子

雀の子は母を知らない
燕の子は兄弟諸共巣を落とされるのを見た
烏の子は一族郎党が争う下で大きくなった

年降る龍
空を目掛けて飛ぶことしか知らぬ
竜巻や台風や雹にいたぶられ
禿げた鱗の下の桃色の肉
年降る龍
雀の子、燕の子、烏の子
みんなみんな
彼の背鰭に抱かれて大きくなった

雀の子は泣く
燕の子は隠れる
烏の子は喚く
それぞれの屈託を抱えて
雀の子は草臥れ
燕の子はうんざりし
烏の子は傷付いて
皆が皆、龍の懐に抱かれて大きくなった

龍の鱗は冷たくて硬い
鱗の剥がれた柔らかな肉の感触は不気味で
龍の背で浴びる風は冷たいなんてものじゃない
雀の子、燕の子、烏の子、
誰一人としてその背鰭を去ろうとはしない
地上に飛び降りることも
暖かな茂みで眠ることも
砂浴びをして休むことも
選ぶことができただろうに

雀の子、燕の子、烏の子、
みんなみんな
龍の子なのだ。

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