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『鬼平犯科帳 血闘』

 中村吉右衛門さんがあまりにもハマリ役であったので、長谷川平蔵を演じるのは誰であっても難しいだろう。時代劇、特にこの鬼平犯科帳は主人公長谷川平蔵の人間味をどのように演じるのかが問われる作品だけに、現代劇の延長で脇役を人気俳優で揃えても作品の仕上がりに影響が出てしまう。正に一丸となって取り組まなければ完成しないのだ。

 時代劇ファンの多くは、今回の作品に対して手厳しい。今回鬼平役に抜擢されたのは、吉右衛門さんの甥にあたる松本幸四郎さん。年齢的には鬼平を演じても良いタイミングなのだが、如何せん顔が綺麗すぎる。若い頃は“本所の銕”と言われた無頼漢。それが品のある幸四郎さんでは、ちょっと違うとなってくる。また現場に着いて『火付盗賊改 長谷川平蔵』と名乗るのだが、先代までは『火付盗賊改方 長谷川平蔵である』とする。このセリフが意外にも存在感に影響が出ているように感じられた。悪党を前に『長谷川平蔵である』と名乗った方が締まりが良いように思うのだ。また幸四郎さんのセリフ回しが幾分早い。鬼平は悪党に対しては早口でも、信頼の置ける者たちに対しては、情け深く諭すように語る場面がある。しかしこの場面でもほんの僅かな間とテンポがあるかないかで、その場面が活きて来る。鬼平は“江戸っ子”であるから現代の標準語とは些か違うのだ。期待大な作品だけに評価が厳しいが、それだけファンが待ち望んでいる証でもあるのだ。

 脇を固める俳優も、“おまさ”には梶芽衣子さんから中村ゆりさんへ、彦十は江戸屋猫八さんから火野正平さん、うさぎこと木村忠吾は尾美としのりさんから浅利陽介さんへとそれぞれバトンタッチ。前作のキャストが名優ぞろいであったこともこの作品の魅力だった。言うまでもなく梶芽衣子さんのおまさは梶さん以外には出来ないだろうとも個人的には感じていた。それくらい梶さんは“おまさ”であったと思う。その“おまさ”を中村ゆりさんがどのように演じるかがこの映画の鑑賞ポイントでもあった。今回の演技を見る限り、新しいおまさ像を作っていくだろうと期待を膨らませた。薄幸でどこか陰のある女性のイメージを観客に与えた。そして中村ゆりさんは時代劇も似合う俳優であるとも思った。

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