ゴージャス誕生日ディナー

誕生日当日は、夫と銀座へ出かけた。
この日のためにちょっと良いレストランでコースを予約していた。
夫の誕生日も4月で、私の誕生日の日に2人のお祝いを一緒にしようと話していたのだ。

誕生日の数日前、インターネットから予約を進めた。
コースを選び、人数を打ち込み、嫌いな食材・アレルギーなどを書く欄に「1人妊娠中のため、生肉と生魚とナチュラルチーズを控えています。」と書いた。
もう少し進むと、デザートの誕生日メッセージの有無を選択出来る欄があり、もちろん”有”を選んだ。
そしてその下へ進むと、「お誕生日おめでとう」「Happy Birthday」など、メッセージの文章を選択できたので、
銀座のコース料理なら、当たり前に英語っしょ!と思い、「Happy Birthday」を選んだ。
私と夫の名前を書かなくても良いのかな?その欄が無いけど・・・と思ったが、
銀座のコース料理だもん、ケーキ屋さんで誕生日ケーキを注文するんじゃないんだもん、銀座のコース料理だから、名前は必要ないんだよね。
銀座のコース料理は、「Happy Birthday」の文字オンリーで、シンプルかつスタイリッシュに祝うんだよ、普通そういうものでしょ、銀座のコース料理なんだから。
不慣れな(というか初めての)コース料理の予約に、私はあたふたを隠せなかった。

予約を終え、無事にお店から予約完了のメールが届いた。
誕生日に銀座でコース料理。なんてゴージャス。
正直な話、コース料理はあまり得意ではない(メインの前に大体お腹いっぱいになってしまう)のだけど、やっぱりウキウキする。

銀座に到着すると、日曜日だったので銀座の街は歩行者天国になっていた。
見渡す限り、人・人・人!中国人!
なんて東京!!!なんて銀座!!!!ウヒョーーー!!!!
私はもう10年くらい東京に住んでいるのに、銀座や浅草などの場所に行くと、必ず福井県民の人格が目を覚ましてくる。

新しいiPhoneケースが欲しかったので、銀座SIXへ入った。
初めての銀座SIXに心が躍ったが、iPhoneケースが売っていそうなショップは入っていなかった。(あったのかもしれないけど、なんか直感が「無い」と言っていた。)

その後、銀座三越に入った。
「三越には、iPhoneケースあるんじゃない?」と夫が言った。
でも、私の直感はまたもや「無い」と言っていた。
キャンドゥとか、入ってないのかなぁ・・・と思った。
エスカレーターで上り下りしていると、ちょっとかなり疲れてきてしまった。
福井県民の人格がなかなか眠ってくれない。

疲れて、甘いものが食べたいと思った。ケースは家の近くのキャンドゥで買うことにした。
銀座三越には、フロアごとにスイーツ店やカフェが入っていた。
とりあえずなんでもいいから甘いものが食べたかったので、
今いるフロアのカフェへ入ったが、そこは1時間待ちだった。
1階下へ降りたフロアのスイーツ店へ入ると、入口の前は長蛇の列。
「もう、マカロンでいいわ!さっきの、最初のほうにあったマカロン屋!マカロンなら行ける!もうマカロンでいい!」
何故かマカロンが妥協枠に入れられているかのような言い草で、私はマカロン屋を目指した。
三越に入って1番最初に目に入ったマカロン屋だ。
すると待ち時間、30分だと言われた。
私は、マカロンを店で食べる人なんていない、マカロンは土産で人に持っていくものだと決め付けていたので大変驚いた。

私たちは完全敗北し、外へ出ると、大粒の雨が降っていた。
しばらく銀座を闊歩して時間通りにレストランに到着した。
イタリア人ボーイにエスコートしてもらった。
私はいつまで経っても椅子を引かれるのに慣れないでいる。(なんか座るときに信用できない)

「「誕生日おめでと〜〜〜!」」
夫はビールで、私はノンアルコールワインで乾杯した。
これから、銀座の街を見下ろしながらのコースディナーが始まる。
私の気分は最高に昂っていた。

向かいのビルの、同じ階くらいにあるお店が気になった。
そのお店のお客さんは、上品な熟年夫婦が1組、上品な中年男性が1人だった。
カーテンが全開だったのでよく観察することができた。
高級感のあるモダンなカフェ・バーかな。
そこにセクシーなバニーガールが2匹いて、お盆で料理やドリンクを運んでいた。
私はそのお店のことが気になりすぎていて、たまにそのお店を眺めながら夫と会話していた。
結局どういうお店なのかはいまだに分かっていない。

コースはすみやかに始まり、あっという間に3品目くらいになったとき
「花ちゃん、もうヤバいかもしれない・・・。」
夫が顔色を土にして、目をうるつかせて小声で訴えた。
夫が私よりもはるかにコース料理に弱いことを知る。
冷や汗をかきながら料理を口に運ぶ夫を見て、かわいそうだなと思った。
決して料理がまずいのではなく、たくさん食べられないのだ。
一方で私は、メインのお魚とお肉までペロリと平らげることができた。
こんなことは人生で初めてだった。
お腹の子と、しっかり2人分の食欲を感じて嬉しくなった。

そしていよいよデザートの時となった。
夫にはもう誕生日プレートを用意してもらっている旨は伝えていたので、
2人でウキウキワクワクしながらプレートの登場を待った。

イタリア人ボーイがやってきて、私たちの目の前にデザートを置いた。

「オマタセシマシタ、コチラデザートノ、パンナコッタ デス。」

「わぁ!パンナコッタだ!パンナコッタ大好き!」
はしゃいで夫にパンナコッタ好きを報告した。
夫も、パンナコッタならすんなりお腹に入る様子で、
2人でパンナコッタを心から楽しんだ。

「夫!おいしいね。パンナコッタ!」
「うん。おいしいね!!・・・この後に、誕生日プレートがくるのかな?」

漠然と膨らませていた不安の膜を、夫がメスで切り開いた。
このパンナコッタのあとに誕生日プレートがきても、結構私も、もうキツいぞ。
どういうことなんだろう。
銀座のコースは、デザートが2段階になってやってくるの?
人ってそんなに食べれるの?

「一応、もうしばらく待ってみようか。」
夫が言った。
私たちは待った。じっと待った。
お互いに、不安を顔に出さぬよう、何食わぬ顔をして、たまにバニーガールを眺めたりして。
すると、隣のテーブルでイタリア人ボーイの声が聞こえた。

「オタンジョウビ、オメデトウゴザイマス!」

私と夫は、すぐに会話を中断して耳をすませた。
すると、お母さんと娘さんと思われる女性2人のテーブルに、なんとも豪華で可愛らしい誕生日プレートが運ばれているのを確認できた。
プレートの上ではろうそくの火が綺麗に煌々と光っており、母か娘のどちらかがフーと消した。
その後、誕生日プレートを囲んで、母娘は思い出の記念写真を撮影していた。

いっきにソワソワしてきた。
私と夫は、敵が現れたときなどに女子同士がよくやる、目線だけでの会話をした。
声には出していないけど、夫は『多分ヤバくね』と言っていたと思う。
その返答に私は『これ多分プレート無くね』と言った。

するとボーイさんがやってきて、二つ折りの伝票ホルダーを私たちのテーブルの上にそっと置いて去っていった。
その瞬間、完全に私たちの誕生日プレートが”無い”ということが分かった。
私と夫は、一切声には出さずに、今の心境を目線だけで伝え合った。

「でも、せっかくだから写真撮ってもらう?」
と、夫が声を発した。
「そうだね。そうしよっか!」
ボーイさんを呼び、私たちは何も置かれていないテーブルを囲み、記念写真を撮ってもらった。

きっとどうせ私のミスで誕生日プレートが運ばれてこなかったのだと思うので、
お店に不満などは全く無かった。
逆にこの状況が面白く、最高の思い出の誕生日ディナーとなった。
夫に申し訳ないと思ったけど、夫も逆にこの状況を楽しそうにしていたので、まぁいいかと思った。
ただ、これから交際しようとしているカップルだとか、絶対失敗できないディナーでこういうことが起こった場合、どうするんだろう。
銀座のGUで買い物をして帰った。
帰りの電車のBGMは、ウルフルズの”笑えれば”で間違いなかった。










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