見出し画像

~アイスクリーム聖典~

現存する「アイス聖典」を編纂したもの、正式名称は「アイスクリーム由来講論及び旧事御書」。
一部、検閲及び修正済み。

序の段より

◆あるとき 神さまは どろ水をすすり土をほおばる 人間を あわれに思い 人間かいに アイスを落としました。でも 人間は おろかなので アイスをめぐってあらそいました。

アイス聖典 第1章ー開闢ー

惜別の段より

◆陶磁器のような白きのアイスに封印されるは神の時代より古き時代、クダモノと呼ばれたもの。しかし、それを知る神は減り、創造主は遥か昔に宇宙を去っていた。

氷菓母神マザーアイス冷凍室サンクチュアリに佇んでいる。神々を束ねる5柱さえ、立ち入ることが出来ない。

降臨の段より

◆氷神の雷光と見紛う鋭い突き。左手のラムネアイスを振るう。迎え撃つは糖神のソフトクリーム、左腰の鞘から右手で切り上げる、ラムネアイスを弾く。飛び散るソフトクリーム、砕けるラムネアイス。氷神はアイスを失うが、糖神は右腰にもう一振のソフトクリームがあった。

廓大かくだいの段より

糖留門とうりゅうもんが破壊され、高次元に留めていた糖分が溢れだした。これにより劣糖遺伝子しか持たない人間でもアイスを認識できるようになり、階層構造が揺らぎ始めた。

◆神が独占していたアイスを人が手にしたとき、神と人との境は曖昧になり糖分平等カーボニュートラルが起こった。

◆掛けまくも畏き甘糖大御神 氷原の洞穴断熱岩戸に 御禊祓へ給ひし時に生り坐せる大御神 禍事罪穢を給ひ清めたまえ 恐み恐みもうす

◆口腔への投入の刹那、融点を迎えそして嚥下へと至る。光よりも速く五臓六腑に染み渡り、全細胞が歓喜する。そう、これこそ生命の源泉、別名アイスなり。


アイス聖典 第2章ー黎明ー 


異変の段より

◆地面が発酵したパン生地の様に隆起。刹那、まるで弾けたポップコーンの如く土が、石が、木々が四方へ飛び散る。
そこには天を衝く無数のアイスキャンディがそびえていた。 

◆雲を割き、深緑の巨大な物体が降下してくる。
「"甘降りあまくだり"だと? まさか、また甘神の一柱が討たれたといのか。」
大地に緑が染み渡り、そして世界に抹茶アイスが顕形した。

到来の段より

◆不意に風上から甘い匂いが流れてくる。
野生のクッキー&クリームアイスだ。狩人は松明に火を着け叫ぶ「村に知らせに行け!ここは俺が食い止める。」
しかしクッキー&クリームアイスはシングルではなくトリプルだったのだ。彼の誤算だ。 

◆森に仕掛けていたコーンを確認する。
「ちっ、チョコミントか」落胆の声が木々の静けさに溶ける。狩りの目的は父の仇であるクッキー&クリームだ。

滲透しんとうの段より

◆活きの良いパルムからは、良質のチョコが刈れる。「よ~しよし、良い子だ。来年も良いチョコを纏うんだぞ」チョコが刈り終わったパルムは再び野に放たれる。

甘迎会かんげいかいの準備が着々と進む。荒れ狂うアイスをカップまで誘導するのは至難の業だ。前回の湿気ったコーンとは異なり、断熱効果の高いカップを用意したのだ。もう失敗は許されない。 

アイス聖典 第3章ー極光ー

発端の段より

◆時にアイスは人を狂わせる。しかし、それは当然の事だ、アイスとは熱狂そのものなのだから。

◆修道女のアイスは既に砕け散っていた。「次は顔を狙うぞ、教会を明け渡せ」王国兵が叫ぶ。次の瞬間、修道女の持つ棒に輝きが宿り、太古に失われた神代文字が浮かぶ……「アタリ」と。

◆甘くて冷たい物には神の力が宿ると信じられていた。そして、神の力を手に入れようと作られた物こそ「模造戦糖兵器 かき氷」なのだ。

反逆の段より

◆「皆のもの、アイスは持ったか!今こそ革命のとき、新たなアイスの夜明けだ」 
                    〈ラ・クトア・イス神父〉

◆「あずきバーのアイス言葉は"砕けぬ信念"よ。だから、ほら…前を向いて」
            <修道女シュクレ>

◆この時、民を守った騎士に対して王より送られた称賛の言葉「まさにjustアイスiceのようだ」は、後の時代において正義justiceの意味をもって使われるようになった。

簒奪の段より

◆「倒れるぞー」巨大なアイスの棒が斬り倒された。アイスの収穫が終わった棒は、上質な糖を神に捧げる儀式''糖奉神祈とうほうしんき"の櫓に使用され祈りの場に生まれ変わるのだ。

◆「アイスを崇めぬ者は要らぬ。」
主教の手が虚空を払う。その軌跡を追うようにチョコチップアイスが舞い、愚か者の体を引き裂く。無数のチップが鋸刃の役割を果たし、教会の柱までもが切断された。

◆それは革新だった。深緑の相位のアイスより抽出した液体は『抹茶』と名付けられ『茶の湯』と呼ばれる特殊な技能体系を確立した。

アイス聖典 第4章ー化生ー

静謐の段より

◆アイスに対する不敬罪は、私人逮捕が認められているが行使されることは滅多に無い。何故なら、その前に天から降ってきたアイスに消されるからだ。

◆アイスが無ければ奪えば良いじゃないか。私の口に入らないアイスは悪なのだから。

◆人がアイスの限界を決めるなど在っては為らない。アイスとは可能性なのだから。

揺籃ようらんの段より

◆「初めてアイスを食した王は、余りの美味しさにeyeから叫び声screamを出した。これがアイスクリームの語源です」
「先生、目から声なんてでないよ」
「それは、君が本当に美味しいアイスを食べたことが無いからだよ」

◆「苗字帯糖みょうじたいとうを説明できる子は居るかな」
「はい、糖歴53年に貴族以外が苗字と個人財産としての糖分の所持を認めた法令です」
「その通り、良くできました」

安寧の段より

◆「日に1つアイスと少しの感謝。それが、世界平和への第一歩です」 
                    〈マザー・フラッペ〉

◆ある噂が在る。アイスを濫用したものは、黒服のオフィサーに連れ去られ、そして永劫に『オフィスoffice』と呼ばれる空間に監禁されるらしい。文字通りアイスice存在しないoff地獄へと。


アイス聖典 第5章ー萌芽ー

革新の段より

◆鳴り響く銃声を数える、6発目。チャンス、次はリロードだ。柱の影から躍り出た瞬間に足を飛んできたアイスが抉る。
「なぜだ?ピノは6粒入りのはず」思わず問う。「悪いな、チョコアソートパック24粒入りだ」返答と共に、残り18粒が撃ち込まれた。

◆「20…40…糖度計、振り切れます!」
炸裂音共に計測手がアイスボックスをぶちまけたかのように飛び散った。至高のアイスとはそこに在るだけで世界を破壊する。

◆その身に纏うはチョコモナカジャンボ、別名炸裂装甲リアクティブアアイス。三層構造により衝撃を無効にし、同時に砕け飛び散ったモナカは敵を切り裂く。まさに攻防一体のアイスだ。

新生の段より

◆「シロップ少佐、すまないが昇進の話は無かったことにしてくれ」 
「なぜです?先の大戦での功績を認めての昇進だと言ったじゃないですか」 
「君……三親糖内さんしんとうないにかき氷擁護派が居るそうだね」 
                 〈ミルク大佐とシロップ少佐〉

◆裂傷多数、骨折13ヶ所さらに感染症によ発熱。彼は診るなり手早く処置を行う。傷口にクーリッシュを塗り込み、折れた足にホームランバーを添える。そうして彼は多数の命を救った。

◆「今、この場に於いて、シャーベッ党とジェラー党の連立政権の誕生を宣言する」
                 〈カ・キーゴ・オリ党首〉

波紋の段より

◆如何なる兵器も「それ」を傷付けることは出来なかった。首都を壊滅させた「それ」を纏うアイスを人々は、畏怖と恐怖を込めてこう呼んだ…「ビスケットサンドアイス」と

◆レーダー捕捉を避けるため、パラシュート無しのHALO降下、しかし問題はない。しなやかなモナカと空気をふんだんに含んだバニラアイス、そうモナ王があれば無傷で着地できる。

◆極限まで熱伝導効率を高めた《対アイス 特効食器 アイススプーン》の一閃、抵抗なくアイスを敵ごと切り裂く。瞬間、冷気がスプーンを伝わり右腕を凍結し右腕は砕け散る。安い代償だった。

アイス聖典 第6章-陽狂-

疆域きょういきの段より

◆「あんまりアイスアイスって言ってるとアイスになっちゃうんだからね」
まさか翌日、ベットで冷たいアイスに変貌した弟を見ることになるなんて思っていなかった。

◆状態はレベルタフィー、まだ引き戻せるはずと冷媒師が5人掛かりで冷却を続ける。堪らず1人が叫ぶ。
「ダメです、キャラメリゼが止まりません!」

◆「執糖医しっとういが私である限り、ミスは有り得ません。彼の脳欠甘障害のうけっかんしょうがいは必ず治ります」
       〈甘染病棟かんせんびょうとう専属医師ソイ女医〉

焦燥の段より

◆死体横の小さな水溜まりに指をつけ、ペロりと舐め呟く「これは…糖尿?近くにはアイスの空袋」続けて探偵は言い放つ。
「犯人はアイスが好きな糖尿病患者だ!」その場の全員が該当した。
「クソっ、迷宮入りか…」諦めの言葉が響く。

◆「つまり、トリックはこうです。柱の一部をアイスにすり替えておき、室温を操作することで建物を倒壊させた。そうですね?」

◆検査の結果、娘の血液型は「シェイク」ではなく「クーリッシュやみつき練乳」と判明した。妻の不貞は明らかだった。

隘路あいろの段より

◆小屋に駆け込む。休む時間はない、急ぎ隠れねば。窓には無数のアイスが張り付いて来て月光さえ届かなくなった。不意に首筋に冷気を感じた。

◆糖の過剰摂取で消滅した人は、黒い淀みである甘味処スイートスポットに変貌する。それを鎮めるため激辛料理を供物とする"甘魂相殺かんこんそうさい"が始まった。


◆彼にとって適正アイスが「アイスミルク」であることは許されなかった。だからこそ、改竄したのだ。乳脂肪3%の表記に線を足し8%へと。

◆守護アイスを右手に憑依させ、襲撃に備える。既に5人が犠牲になった、甘さ渦巻く甘味処スイートスポットでは3糖級とうきゅう以下は生き残れない。


アイス聖典 第7章ー鈍光ー

亀裂の段より

◆路上に横たわる骸がひとつ。アイスを常温に放置し溶かした者の末路だ。

◆激辛料理店、レモン農家が次々と襲撃される。甘人あまんちゅと呼ばれる過激派の犯行だ。「甘味」以外全てを憎む「甘善懲悪かんぜんちょうあく」の思想の下、「甘全勝利かんぜんしょうり」を目指しているのだ。 

害糖縁絶がいとうえんぜつの為、昼夜を問わず拡声器で注意を呼び掛ける。しかし、害のある糖なんて存在しないと信じる市民の反応は冷たいものだった。

◆「おっと、それ以上近付くな。こいつがどうなっても良いのか?」
そう言って手に持ったアイスにドライヤーを突き付ける。アイスは不可逆な存在、1度溶けたら2度と元には戻らない。

分断の段より

◆「寄るなよ、ラクトアイスが伝染るだろ」
「やーい、お前のアイス乳脂肪ぜロー」「うわ、植物性油が手についた」
「うるさいっ、ラクトアイスは…種類が…味の種類が…たくさんあるんだっ」

◆殺到する警察官、手にはチョコアイスが握られている。「やべぇ、早く隠せ!」指示を出すが手遅れだった。机の上のキシリトールガムは単純所持で死罪が確定する。仕入担当の頭部がチョコアイスによって砕け散った。

◆響き渡るモーター音、金属の刃が目で追えぬ速さで回転している。
「言うことは聞く、だからそれだけは止めてくれ!」
無慈悲に投下され、かつて固体であったものが液体へ変貌する不快な音が響きわたる。
丹精込めたアイスがシェイクに変貌していた。

融和の段より

◆「彼らは3ヶ月に渡り豆乳を凍らせたものをアイスと信じて摂取していたそうです」
余りの非道にその場の捜査官らは嗚咽を漏らす。犯人追跡より被害者にアイスを食べさせるのが優先だ。

◆「抜糖ばっとう‼️」
号令一下、23名の剣糖士けんとうしのアイスが抜かれる。周囲の空気が冷やされ、飽和した水蒸気が冷気となり足元を覆う。甘糖かんとう地方の行く末を決める戦の火蓋が切られたのだ。 

◆「ハッ、アイスはアイスでしか防げない…常識だろう。……何っ?なぜ、無傷なんだ。まさか…アイスボーグが実戦投入されたという情報は嘘じゃ……ぐわぁー」

アイス聖典 第8章ー斜陽ー

栄達の段より

糖割理事とうかつりじの采配で滞りなく、アイスが配分される。しかしスラム地区代表が供給量を増やして欲しいと愛糖あいとうの意を表明した。

◆アイスリンクが断ち切られた。アイスの同期不全は通信手段が使えないことを意味する。敵性アイスブレイクの被害は甚大だ。

膠着の段より

◆「アイスの為に戦った者は、死してのちに''永久糖土えいきゅうとうど"へ招かれるのです。さあ、恐れず戦いなさい」
その一声でカルト集団"糖狂徒とうきょうと"の戦糖部隊"糖狂死民とうきょうしみん"は猛進を開始した。

◆「ケトン臭がぷんぷんするぜ。探せ!ロカボ野郎を逃がすな、口にアイスをねじ込んでやれ」
 数時間後、強制糖衣アイスナイズドされたロカボ主義者だった物体が無数に転がっていた。

◆「皆、許せないよなぁ⁉️」そう言って小綺麗な男を地面に引き倒す。「死刑!死刑!死刑!」周囲は怨嗟の四面楚歌が満ちる。アイスのコーン部分を棄てる輩は死すべきなのだ。

転落の段より

強酸糖主義者きょうさんとうしゅぎしゃ、酸を故意に投入することで糖度を上げ、世界の「甘味」に対する信用を失墜させようと目論む集団。今や、議会の半分は奴らの息が掛かっている。

◆「判決を言い渡す。罪状<充糖法違反じゅうとうほういはん>により<抱腹絶糖ほうふくぜっとう>の刑に処す。」
あまりに重い判決にどよめきが起こる。

アイス聖典 第9章ー払暁ー

流転の段より

◆棒を抜きアイスを素手で握り、薄茶の服を着た集団。白くは戻れぬべっこう色umbar棒無しun-Barを掛けて”無謀の琥珀アンバース”を名乗っていた。

◆体の7割がアイスに侵食されている。重度の甘染症かんせんしょうだ。いずれアイスに転化すると悟り同意書のサインする。”アイスとして供給される事に同意しますか”…"はい"…と。
次の日、成人男性に1人に相当する約65kgのアイスが出荷された。

転廻の段より

◆月への着陸は隠蔽された。その正体が癌化し、巨大に膨張した雪見だいふくだと判明したからだ。衛星がアイスなら惑星たる地球は一体…当然の疑問だった。

◆振り向けば博士の胸にはジャイアントコーンが刺さっていた、即死だ。任務の失敗を受け入れ撤た……側頭部に鈍い痛み、足元にアイスの実(グレープ味)が転がる。朦朧とする意識の中、無数のアイスの実が体を打つ音だけが残る。

◆「助かるよ、この件は極秘なんだ」そう言って黒服の女は構えたあずきバーを懐にしまう。
確かに、この星が青いのはラムネアイスだから…という事実は混乱しか生まない。私は報告書を燃え盛る暖炉に放り投げた。

遷旋せんせんの段より

◆「近年の研究で判明した通り、かつてアイスは神が遣わした人類の敵でした。」
            <フェーニル・ア・ラニン教授>

◆人がアイスを食べているのでは無い、アイスが人に食べる様に仕向けているのだ。目的は明白、支配領域拡大の為だ。

アイス聖典 第10章ー暁天ー

惨事の段より

◆「レベルカラメル甘剰移入かんじょういにゅうだ、今すぐ装置を止めろ。このままでは欠糖降下けっとうこうかが起きるぞ」 甘味がゼロになったアイスは自己を中心としたゼロ次元へ収縮し、質量無き糖分が3次元へ降下してくる。

◆「アイス濃度、限界値クリティカルを越えます。虚数糖質イマジナリーアイスの観測深度、閾値を越えます……ああ、神よ」

◆反アイス団体《ノイズ》は日に日に過激さを増す。吊られたアイスは無惨に溶け、白樺の棒が露になっていた。遠来遥か奴らの雄叫びが聞こえる『No Ice!No Ice!』

決戦の段より

◆周囲の人々の糖を吸収し、円柱状の決糖地けっとうちが上昇し、|
血糖地《けっとうち》の急上昇により約2万人が意識を失う。
その円柱状の台地は糖の担い手を決するいにしえの戦場、最後に生き残った者が大糖領だいとうりょうの称号を得るのだ。 

◆アイスを選ぶ権利、アイスを食べる権利、アイスの感想を述べる権利。この三大権利を守る事が大糖領の責務だった。そう、今までは…

畢竟ひっきょうの段より

◆「第23代大糖領として"廃糖令はいとうれい"を宣言する。糖尿病も虫歯もない、まだ糖の存在しなかった"前人未糖ぜんじんみとうの世界"への回帰を目指すのだ!」 

              〈ベジー・タリアン大糖領〉

◆「シェイクがアイスか否かなんて今はどうでも良い、廃糖令はいとうれいの阻止の為に協力するんだ。そして、シャーベット派とも同盟を組むべきなんだ」

                〈反乱軍兵士〉

◆「氷菓母神マザーアイスは全て国の管理下にある筈…まさか、伝説の製造業者アイスメーカーが現れたと言うのか。アイス廃止まであと一歩という処で」

◆「防御隔壁作動、チャンバーの加圧完了、糖質制限の解除を確認。人型戦糖兵器《アイスエイジ》起動します」

                〈オペレーター〉




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?