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初めての一人暮らしは、おままごとだった


たまたま呼ばれた現場に行ったら、そこは15歳の頃に住んでいたマンションの前だった。

あまりにも久しぶりで、懐かしくて仕方なかったため、雪が降っていることにも気付かなかった。

家族とうまくいかず、高校を口実に家を出て、初めての一人暮らしをした場所だった。そこは自由で、孤独で、未知の世界だった。

福井県の北の方から30キロほど離れた場所の、市街地での暮らしはなんとも刺激的だった。

CMでしか見たことのないマクドナルドの朝マックを食べるのが夢だったし、電車で実家に帰ってみたかった。

「大人=パーマをかける」だった私はパーマをかけ、大人=派手なメイクをすると色々な勘違いをしていたため、ものすごく背伸びをした生意気な15歳が出来上がった。

だけど、たかが市街地の駅前に一人暮らしをしただけでは、大人になんてなれなかった。車の免許もない、保険証のことすら知らない15歳は、ただの誰かの扶養だ。

ヤンキーの溜まり場になり、親に仕送りを打ち切られ、高校にも行かずバイトに明け暮れていた。室内はタバコのヤニで真っ黄色になっていた。

夢もなく、生活は荒み、自分が何のために生きているのか全く分からなかったけど、働いたお金を月末には1,000円ぐらいしか残してなかった暮らしはまるで昭和の芸人だと今になって思う。


ワンルームのキッチンはミニキッチンで、A4ファイルぐらいの大きさの流し台では、料理もしたことのない人には何をするでも不可能な狭さだった。


置く場所も、まな板もなかったので、私は手の上で豆腐を切った。切れなさそうな先の丸いオモチャ包丁だと思ってうっかり包丁を引いたら、台所が血祭りになったのを鮮明に覚えている。掌の傷とは今後もずっと付き合っていくだろう。


親が最初の頃に持たせてくれた味噌は、霜だらけの冷蔵庫の奥で化石となり、ほうれん草は溶けていた。


家で家事もしたことのない、不登校からの15歳一人暮らしは、本当におままごとだったなあとしみじみ感じた35歳の2月の日であった。


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