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現代の子育てがなぜ難しいのか。1970年台の毒親小説が読んだらわかってしまったこと

子どもが減っており一人当たりに使うお金が多くなっている。
今や人手不足でほとんどの子供は就職できる
大学は全入時代に入って久しい

なのに、今の子育てを見ていると(人によっては)むしろかなり大変そうです。なぜだろう? と思っていたのですが、理解したのです。

今でいう「毒親」をテーマにした城山三郎さんの『素直な戦士たち』という小説です。経済小説などを書いてた人ですよね。

『素直な戦士たち』(すなおなせんしたち)は、城山三郎による長編小説。
信濃毎日新聞」などの地方紙に1977年11月から78年4月まで156回連載された。当時の日本の過熱する受験競争、学歴社会とそれに翻弄される家族の人間模様をコミカルに描いた。

新潮社のページより

新潮社の書籍紹介はこんな感じです。

東大合格までの遠大な計画のもとに、あらゆる犠牲をはらって受験戦争に突入する親子。
頭の良い男の子を生むには25、6歳、だから24歳の時に見合いをする。相手は知能指数さえ高ければ、むしろ自分の出世をあきらめたような男がいい。――これが千枝が、わが子を東大に合格させるために立てた遠大な計画の第一段階だった。あらゆるものを犠牲にして計画を実行する妻と、それに疑問を感じながらも従わされるサラリーマンの夫を通し、現代の教育と親子関係の断面を抉る。

『素直な戦士たち』

実験的な子育てはどうなるか?

主人公はIQは高いがしがないサラリーマンの秋雄。彼の見合いからこの話は始まります。

見合いの相手の千枝さんは、「子供を使って壮大な実験をしたい人」「野望を持った女性」として描かれています。読書家で最新の研究を調べて、その通りに子育てをやろうと決心し、実行するのです。

主人公の秋雄はそんな千枝が「面白い」と思って結婚するわけです。

これまでの見合いの相手たちは、申し合わせたように、ごく控え目に、当りさわりのない受け答えをするばかり。そのくせ、目の端で、ちらちら、こちらを値ぶみしてくる。そうした女と結婚すれば、いよいよ退屈になるばかりでなく、一種じめじめした陰険さにつきまとわれそうな気さえした。
 千枝には、その種の気配が、まるでない。大きな目でききたいことを、けんめいに、きいてくる。目を輝かせて、子供づくりという子供っぽい夢を語る。そのひたむきさが、気持よく、また、おもしろかった。こんな女と結婚すれば、生活にはずみというか、調子が出て、退屈も消え、生き生きした家庭が持てそうな気がした。

『素直な戦士たち』

千枝は独自のやり方で論文や書籍を読み、最新の学説を取り入れた子育てを頑張ります。当時としては非常に聡明で、また進んだ女性でもあったんだと思います。

その理由はシンプルで、それなりに説得力があるものです。

「超一流大学を出ていれば、超一流会社へ入ることも、医者になることも、官僚になることも、どんなことでもできるわ。無限に選択のチャンスがあるわけよ。そのときこそ、子供は、『ほんとうの自由人にしてくれた』って、バンザイするわよ」
「…………」
「その子が、たとえ、いまのあなたの係長さんのようになろうと、ルンペンになろうと、それは、子供が自由にその自由を行使した結果であって、子供自身の責任。子供だって、あきらめるわよ。ところが、はじめから三流会社しか行けない人間に育てたりすれば、それこそ、親の責任よ。人生を選択するチャンスを奪ったと、うらまれるわ」

『素直な戦士たち』

うーん、「子どもの可能性を最大限にしてあげたい」よく聞くセリフ。

かくして、長男、英一郎に対する、計算され尽くしたような子育てが始まるのです。

早期教育、テレビなし育児、おもちゃは買わない、でんぐり返しや兎跳び、積み木で手先の訓練ーー。

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