せめて彼女と手を繋いで漂えますように
「死ぬ前に、何したい?」
地球に隕石が落ちると予測されてから一週間がたった。
お金持ちは豪華な宇宙船に乗って、生き延びたいと願った一般人は、大きな宇宙船にぎゅうぎゅう詰めに乗って旅立った。
地球には自分の死地に誇りを持っている年寄りや、私の様な命の価値観を見出せていない若者だ。
空に小さな星が見える。
「死ぬ前に、何したい?」
昔はもしもの話だったが、今は割と本気で聞いた。
「特にないなぁ。」
私と同じように地球に残った友人はそう答えた。
それから一週間、極端に人の少なくなった街を縦横無尽に練り歩いたり、
何も移さなくなったテレビを壊して回ったり、
コンビニで寝転びながら、お菓子を貪ったり、
私達のやりたいことの代わりになるような、悪い事を思いつく限り行った。
「ねぇ、なんか死ぬ前に叶えたかった願いとかある?」
「願いかぁ。あぁ、一つだけあった」
「何?」
「一度でいいから心の底から愛されてみたかった」
彼女からそんな情熱的な言葉が出てくるとは思いもしなかった。
「私のお父さんさ、私の事を宝物だってよく言うの。
でもね、昔、お父さんを怒らせた時にさ、お父さんに『お前は不良品だ』
って言われてさ」
「不良品を宝物にする訳がないし、お父さんの愛してるは嘘だって思ったの
子供だったし、お父さんも子育て初心者だったし、言葉のあやってやつなのかもしれないけどさ。
それから好きとかなんとか言われても『どうせ嘘』って思っちゃうんだよねぇ」
「わ、私はあんたの事ちゃんと好きなんだけど!」
そんな寂しい事言わないでよ!
私だけ、何も考えていないバカみたいじゃん!
「あはは、ダメダメ。まだ浅い。
多分、誰かが私への愛を証明するために死んだって、私の心には響かない。
理想が高すぎて私でも合格ラインがわからないし、多分合格なんて無い。
私はあの時から誰からも絶対に愛されない。私の『愛された』には届かない。誰よりも愛されたいのにそれが一生叶わないなんて、死んだ方がいいよねぇ」
「じゃあこれから!」
「あはは。無理だよ。だってほら」
彼女が上を指差す
「死に際じゃないとこんな事言わないよ」
どうか生まれ変わったら
彼女に愛を
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