日本国憲法は先人から私たちへのメッセージなのだ。

 憲法が変わるかもしれない。こんなこと、子どものころ、いや大人になってからも考えたことがなかった。「憲法を変えて軍隊をもちたい」と考える人たちが大きな力をもつなんて、一昔前なら想像もできなかった。質の悪い冗談のような話だが、紛れもない現実だ。私たちは今、歴史の分岐点に立っている。
 私は中学校で社会科を教えているため、当然に日本国憲法を教えてきた。しかしこの危機的状況に際し、「自分自身は本当に憲法を理解していたのだろうか?」と反省した。そして憲法について学び直し、気づいた。「日本国憲法ってスゴイ!」ということに。こんなスゴイものを子どもたちに直接伝えることができる教師とは、本当に幸せな仕事だと思う。(労働環境は別として…)

 例えば9条。簡単に言えば、日本は「戦争しない」「軍隊もたない」と書いてある。この内容に反対する人は少ないが、これを「自分に関わること」と捉えている人もまた少ない。生徒たちにどのように伝えれば、実感をもって捉えられるようになるのだろうか。

 私は「憲法は、国民から国家(政府)への命令書なんだよ。」と伝えている。憲法の文言を覚えれば、テストで正解することはできる。しかし、入試のために覚える文字の羅列など何の意味もない。そんなものは本当の知識ではない。
 例えば9条を「国民から政府への命令書」として読み直してみると、憲法の本当の意味が見えてくる。「政府が戦争や軍隊を肯定することは、国民の命令に背くこと」だと腑に落ちる。物事を論理的に考え、心にスッと落ちたとき、それは本当の知識となり、その人の人格の一部となる。主権者は、政府ではなく国民であると自覚した人間になる。

 大切なのは、憲法の条文を覚えさせることではなく、憲法の理念を伝えることだ。
 私は生徒たちに問いかける。「そもそも日本国憲法って何のためにできたの?」
 彼らは答える。「戦争しないため!」
 その通り。日本国憲法の理念は単純明快、「もう二度と戦争はしない。いや、させない。」というものだ。戦争は「起きる」ものではない。「起こす」ものだ。そして戦争を起こすのは国民ではない。政府だ。政府に戦争を起こさせないために9条が重要だ。しかし憲法をよく読むと、その他の条文にも、戦争を起こさせないための仕掛けがたくさん散りばめてある。実に奥が深い。


 13条「すべて国民は、個人として尊重される」
 個人が尊重されない社会が最後に行き着く先は「お国のために死ぬ」ということだ。だから国民は政府に対し、個人が尊重される社会を作るよう命令する。真に個人を尊重するならば、戦争など起こせるはずがない。


21条「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」
 政府が表現の自由を抑えつけるとき、それが戦争前夜であることは歴史が証明している。愚かな歴史を繰り返さないために、国民は表現の自由を手放してはならない。

 生徒「デモなんて起こしてもいいんですか?」
 私「え、だって憲法に書いてあるじゃん。デモが禁止だったら、政治家が何をしても国民は黙ってなきゃいけないってことだよ。それじゃ、選挙で独裁者を選んでるだけじゃない?」と話すと納得する。
 さらに、「デモが起こる国と起こらない国、どっちがいい国だと思う?」と問いかけると生徒たちは悩む。しかし「日本の近くに、絶対にデモが起こらない国があるよ。」というと「あ、北朝鮮だ…」と納得する。21条の大切さを実感する。


 前文「政府の行為によってふたたび戦争の惨禍が起ることのないやうに…」
 12条「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。」

 私はこんな風に伝える。
「日本国憲法って予言の書なんだぜ。この憲法を作った人たちは、将来また戦争したがる政府が出てくるって分かってたんだ。だから、主権者である国民がそれを止めるための仕組みを作っておいてくれたんだよ。そして12条ではこう言っている。『自由や権利は、自分たちが努力して守らないと、独裁者に奪われてしまう。誰かが守ってくれるわけじゃない。だから、自分たちの権利を守るために行動しなさい。』ってね。」

 憲法は、先人が我々に遺してくれた「二度と同じ過ちを繰り返すな。」というメッセージだ。そして、それを子どもたちに直接伝えられるのが教師なのである。教師が憲法の理念を次の世代に伝えていくことは歴史的使命だと、私は考えている。

 99条「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」


 みなさん、授業で憲法を語りませんか?
 憲法を変えたい人たちに忖度して、「政治的中立が…」なんて躊躇する必要はありません。私たち教育公務員には、憲法を守る義務があるのですから。


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