イベントレポート「苫野一徳×税所篤快 zoomトークイベントーぼくたちは、「未来の学校」をどうつくっていくのか?」
「未来の学校のつくりかた」発売まで、あと3日となりました!
出版記念として、先日苫野一徳さんと著者の税所篤快さんとの対談イベントが行われました。
どの話もとてもおもしろかったのですが、個人的にとても印象に残っているお話をこの「はにわ情報局」で発信させていただきたいと思います。「はにわ情報局」とは何か?については、こちらのnoteに書いてありますので、よかったらお読みください。
今回のイベント、なんと350人もの方にご参加いただきました!ご参加いただきましたみなさま、ありがとうございます。
とにかく希望をいただける本ですね。
「未来の学校のつくりかた」を読んでくださった苫野さん。まずはじめに、読んだ感想を熱く語ってくれました。
税所さん:未来の学校の作り方を読んでいただき、ありがとうございました。どうでした?
苫野さん:いや、本当に最高でした。読んでいるとき、ずっとワクワクしていまして。教育の話ってどこで聞いても批判的、否定的な声がまず上がって、そこから議論が始まるんですよね。だから、文句ばかりなんですよね。でも税所さんは、本のはじめに「この旅で出会ってしまった、どうしようもなく魅力的な教育人たちの生きざまを次の世代に伝えるために、この本を書きました。」と書いてるんですよね。ついつい日本の教育にネガティブになってしまいますが、「こんなにも面白いんだよ」「こんなにもワクワクするんだよ」ということを、税所さん自身が最大限に楽しみながら紹介してくださっているので、それを一緒に感じることができ最高に楽しかったですね。
もうちょっといいですかね。第一章が大空小学校の木村さんとのルポタージュなのですが、一般的にみれば問題行動をとるような男の子を紹介するなかで、税所さんはそこにポジティブな意味を、常に見出しているんです。全てがその観点からルポされているので、「こういう風に見れば、今の教育ってもっと幸せに見えるな」とか、ずっと税所さんのモードに乗っかりながら読むことができて、とても良かったです。
けれども、ドキッとするような厳しいことも書かれているんですよね。でもこれにも根底には、「先生だって新しいチャレンジをしたいですよね」「そしたら、もっとワクワクするし、楽しいじゃないですか」というメッセージが、底の方にずっと流れているから読んでいて絶対に嫌な思いはしない。読んでいて、とにかく希望をいただける本ですね。
物語が物語を呼び、進んで行った旅
「本の内容を逐一紹介したいくらいなんですけど」とおっしゃっていた苫野さん。税所さんの人柄にも触れながら、本の魅力を紹介してくださいました。次に、税所さんに一つだけ聞きたいことがあるという苫野さんの話へと移って行きました。
苫野さん:税所さんのこの本の内容は「教職研修」という雑誌の連載だったのですが、本としてまとまって読むと、また違った印象がありました。税所さんが連載を書かれている時の気持ちと、今の気持ちと何か変化があれば教えてほしいです。
税所さん:そうですね。例えば、第1章の大空小の木村先生と出会ったのは、映画館で「みんなの学校」を観たときだったんですよ。スクリーン上であんなにおもしろい方なら、実物はもっとおもしろいに違いない!ということで、木村先生の関西での講演に飛び込み、カバン持ちの申し出を断られるところから、この本は始まるんですよね。
その一本の映画から始まった連載だったのですが、 木村先生の話を聞き終わったら、帰りの新幹線の中でどんどんインスピレーションが湧いてきて。井出さんの顔がぱっと浮かんで「次は井出さんかもな」となって。井出さんの話を聞いているうちに、またどんどんインスピレーションが溜まってきて、次は N高に行ってみようかなって。物語が物語を呼んでいって、日本中を5年間かけて歩き回ったのですが、 これは贅沢な旅でしたね。
苫野さん:税所さんのアンテナを頼りに、進んでいった旅だったんですね。
税所さん:そうですね。思いつきをベースにやっていきました。ある文科省の先輩から言われたのは、 5つとも外見は違う。でも、なんだろうこの気持ちは何かに似ていると、おっしゃっていました。
苫野さん:やっぱり、 日本の公教育の希望だと思いますよ。捨てたもんじゃないなぁと思わせてくれるのは、この本の最大の魅力ですね。
先生が悪いのではなくて、システムが悪い
税所さん:今長男が保育園に行っているのですが、保育園では何かができるとすごいねとなる。でも小学校になると、 祝福のパラダイムが評価のパラダイムに変わっているような印象を受けるんですよね。あれいつの間に?と思うのですが、その辺どう思われますか。
苫野さん:本当にそうですよね。幼児教育の基本中の基本は、 遊び浸るから学び浸るへ、ですよね。主体的な遊び、コミュニケーションなど、いろんなことが遊びのなかにあり、遊び浸った経験があることで自分で何かを試していったり、探究していったりしていくことへの大きな原動力になっていくというのは、幼児教育の基本中の基本です。
わたしがいつも言う言葉だと、信頼して任せて、支える。この辺は全部教育の基本中の基本ですよね。でも、小学校にあがるとどうしても評価ベースになり、遊びと学びが別物になるんですよね。でもこれは、先生が悪いのではなくて、システムが悪いんですよね。やるべきことや時間割が決まっていて、子どもたちをその中に入れ込まなきゃいけないというシステムなんです。なので、システムを変えていきましょうというのは、私がいつも言っていることなんです。
今回のコロナを受けても、公教育システムを転換していく必要があるな、と多くの人が感じていると思うんですよね。「子どもたち幸せそうじゃないな」とか「何かがおかしい」って、みんなわかっている。でも、どうしたらいいかわからない。その解決策は、この100年くらいの教育学の理論と実践の蓄積が、もうはっきり出しているんですよね。じゃあ、それをみんなで共有して実装していこうと、声を大にして言いたいなと思っています。
税所さん:苫野先生がいつもおっしゃっている、学びのコントローラーを本当は子どもたちが持ってほしいけど、教師がもって進んでいっているのが現状だと思います。では、どうしていけばいいのかについて、ご意見いただきたいです。
苫野さん:学びのコントローラーというのは、岩瀬直樹さんの言葉なんですよね。当然の話なのですが、人生を切り拓くのは子どもたち自身なのだから、常に他人にコントロールされていたら、自律した大人になれないですよね。探究をカリキュラムの中核にするというのが、一つ重要な事ですね。自分なりの問いを立てて、自分なりの仕方で、自分なりの答えにたどりつくような学びですね。
今、夏休みの短縮とか、夏休みをゼロにするとかそういう自治体がありますが、教育学の研究からいっても、これは結構危い発想なんですよね。全部一概に批判するというわけではないのですが。ある研究によると、子どもたちは授業時間の半分くらいしか学習していないそうです。
本当に実りある学びは、自分にあった学び方、自分にあったペース、自分に合ったレベルになっており、個に応じて学んでいること。しかし、それだけではなくて、先生や仲間からの的確なフィードバック、支え、助け、そういうものに支えられていること。私がよく言う言い方だと、ゆるやかな協働性に支えられた、個の学びがしっかりと進められていること、ですね。
公教育のシステムはもう限界にきており、これからの教育のために私たちに何ができるのか、一人一人が考え、行動に移すことが大切なのかもしれません。イベント後半では現在高校3年生の福永理紗さんにご登壇いただき、現在の教育を受けている生徒さんのリアルな声をいただきました。
システムがそれを許さないまま、150年経ってしまった
税所さん:この状況の中で、いまどんなことを感じているのか、なにを考えているのか、聞きたいです。
福永さん:私は先生が講義をずっとするのは、正直学校じゃなくてもできるんじゃないかと、どんどん実感しています。朝起きてまずアプリで英語の勉強をしているのですが、そこで学ぶ内容はいつもだったら先生から学ぶことなんです。でも、自分のペースで学べることは、すごくいいなと思っています。だから、学校に行く理由が“先生に教えてもらうために行く”というのが、これから意味が変わってくるんじゃないかなとも思っています。
でも、学校で探究の時間があるのですが、探究はオフラインがいいです。私は人と話すことで自分の考えを整理するのですが、オンラインだと直線的というか…ゆるい対話の時間がなくなってしまっているので、オフラインで先生や友達に相談できる時間というのはほしいです。
苫野さん::福永さんのおっしゃる通り、自分のペースで学ぶ、考えをシェアするとか、個別化、共同化、プロジェクト化の融合というのは、人間にとって自然な学びのあり方なんですね。たった150年前にみんなで同じことを、同じようなやり方で、同質性の高い学級の中で勉強するというのが150年前に発明されたんですけど、人間の自然な学び方には反するものなんですよね。このシステムをどう強化したところで自然には反するので、自然な学びの在り方へと、システム全体で戻して行かなくてはなりません。学びって、そもそも探究ですよね。自分で問いを見つけて、自分でわくわくしながら進めていけるもののはずなのだけど、システムがそれを許さないまま、150年経ってしまったんですよね。
イベントも終盤に差し掛かり、最後に苫野先生から一言いただきました。
苫野先生:これを、お読みいただいて「なんだ日本の教育、いいじゃん。希望がいっぱいあるな」と、感じ取っていただきたい。今日はそれに尽きます。
苫野さん、税所さんのお話を聞いていると公教育に対して自分には何ができるのかを考え行動しよう、と背中を押されているような気持ちになります。オンラインを感じさせない、熱量のあるイベントでした。苫野さん、税所さん、福永さん、司会をつとめてくださった徳留さん、ありがとうございました!
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