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『教師にできる自殺予防~子どものSOSを見逃さない』出版記念イベント


こんにちは。はにわ情報局です。
はにわ情報局では、会社で行われたイベントのレポートや、著者インタビューなど、SNSよりも長めな情報をお届けしています。

2020年12月、小社より『教師にできる自殺予防―子どものSOSを見逃さない』という書籍を出版しました。本日は、本書の出版記念イベントとして実施した、著者の髙橋聡美先生によるZOOM講演の内容を要約してお届けします。

教師にできる自殺予防出版記念イベント

髙橋先生ご自身、父親はアルコール依存症で、貧困家庭、面前DVなど、子どもの頃から生きづらさを体験されてきたそうです。子ども時代、自分がたくさんの大人に助けられた経験から、そんな風に「子どもたちを支える大人をたくさん増やしたい」と思い、今は全国で自殺予防教育や、自殺予防教育の実践を広げるための講演等をされています。

日本の自殺者数が減少傾向にあるって本当……?

たしかに自殺者数は減少傾向にありますが、それは「中高年」の自殺であり、未成年の自殺は、年々増え続けています。自殺を食い止めるための手立てとして、自殺対策基本法が平成28年に改正され、SOSの出し方を伝える教育や自殺予防教育を子どもたちに教えることが義務化されました。
最近では、ニュース等でコロナが原因で子どもの自殺が増えたと報道されますが、子どもの自殺が増えたのは、そんな最近のことではなく、平成28年の法改正後も、皮肉なことにずっと増え続けている現状にあります。

厚労省では、自殺が起きる要因として「ウェルテル効果」という言葉がよく使われます。

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WHOでは、「自殺に関する話題を目立つように配置したり、過度に繰り返したりしない」など自死報道の提言をいくつか出していますが、日本のメデイアではほとんど守られていないのが現状です。

たしかに、実際、若者に影響を与える著名人の方が2020年に自死され、その影響はあったと思われます。しかし、このウェルテル効果だけが子どもたちの自殺の増加の原因ではないと私は考えています。
なぜなら、子どもたちの自殺者数をまとめたグラフの動きを見ると、芸能人の自死と関係のない動きをしているからです。芸能人の自死が原因だと断言するのは短絡的だと思っています。

若者の自殺の背景

助産師さんなどにコロナ禍の状況について聞き取りをしたところ、虐待やDVの増加(デートDV)の相談が増えているとおっしゃっていました。また、

・バイトを失うなどの経済的ダメージ
・進路・就職・進級など人生の岐路で予定が立たない

など、若者はさまざまな状況で苦しんでいます。また、日本のコロナ対策を振り返ると、学校の一斉休校など、子どもたちの犠牲からスタートしましたよね。そこから部活動、留学など、子どもたちが励みにしてきたことがなくなり、希望がなくなっていったのではないかと思います。大人にとっての1年と、子どもにとっての1年はちがいます。今しかできないことを逃してしまった子どもたちが多いのではないでしょうか。

しかし、コロナだけが問題ではありません。そもそも対策が弱かったウイークポイントに、コロナという社会的・心理的危機が襲ったと思っています。虐待問題・ヤングケアラー・貧困など、コロナ以前からあった問題がコロナ禍によくなるはずもなく、すべてが悪化しました。

コロナ禍以前の自殺の原因は?

よくいじめが多いと思われがちですが、小中高生の自殺の原因の1位は以下のとおりです。

小学生:家族からの叱責
中学生:学業問題
高校生:進路問題

また、一人の自殺の背景に、原因は四つ以上あると言われています。自殺の原因を一つに絞ってしまうと、同じ状況にある子どもが「やはり死ぬしかないのかな」と思ってしまう危険があります。原因を一つに絞り、一人に責任を押しつけるなど、犯人探しをすることのないようにしなくてはいけません。

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また、子どもの自殺はすごく身近な問題からスタートしており「お父さんとお母さんが毎日喧嘩していて、勉強できないんだ」「毎日生きづらい」など、子どもが日々伝えていること、それ自体がSOSです。日々の子どもの声を受け止めることが大切です。

「何かあったら、SOSを出しなさい」など、子どもだけに何かを強いるのでは、子どもの自殺は減りません。上の自殺の原因からもわかるように、自殺には全部、大人がかかわっています。大人のかかわり方を変えないと自殺は減りません。しかし、大人が変われば自殺は減ると私は思っています。

自殺予防教育で大切なポイント

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▼まずは心の傷に気づくこと
「あの時、けっこう傷ついたよね」「本当は嫌なんじゃないの?」「大丈夫? しんどくない?」と自分に聞いてみたら「たしかにそうだったかもしれない」と、自分で気づくこともあるよと子どもたちには伝えています。また、周りで気になる子がいたら、友達にもそう聞けるような、お互いSOSを出せる環境にすることも大切です。

▼ヒーローも、SOSを出す
アンパンマンは毎回勝ちますが、顔が濡れたら力が出ませんし、すぐに仲間が助けに来てくれますよね。アンパンマンの強みは、自分の限界を自覚していて、助けを求められるところなんです。みんな弱みがあって、仲間と助け合って前に進んでいるので、SOSを出すのは弱い人がやることではない、ということを子どもたちに伝えています。

▼大人三人まで伝えてみて
心の傷も体の傷と同じように手当てをすれば、今よりは絶対によくなりますし、治りが早いです。心が傷ついたら、体の傷と同じように私たちに見せて、と子どもたちに伝えています。また、解決方法をたくさん知っている大人に伝えてねということと、諦めないで大人三人までに伝えてねとも伝えています。一人目に伝えても、「それはあなたが悪い」と言われるかもしれませんし、二人目は「○○ちゃんは、もっと大変だよ」と、受け止めてくれないかもしれません、そこで諦めずに三人目までに伝えてみて、と子どもたちに伝えています。

では、その三人目の大人に自分たちがなれるかです。聞いてもらえなかったと子どもたちが心を閉ざしてしまったり、追いやられたりしないように、私たち大人側に、受け止める素地を身につけることが大切です。

子どもたちの声を受け止めるには?

先ほどもお伝えしたように、「死にたい」のレベルではなく、日常の子どもたちの声から受け止めていく必要があります。

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「社会的自尊感情」というのは、評価の基準は他者です。他者から褒められることにより、社会的自尊感情は高まっていきます。たしかに褒めるのは大切です。しかし、褒めるだけだと子どもはいいところしか見せず、失敗を見せなくなってしまいます。そのため「社会的自尊感情」と「基本的自尊感情」の両方を育むことが大切です。

基本的自尊感情を育むには以下のことが大切です。

・一緒の体験をする(共有体験)
・成功体験も失敗体験も共有する。失敗したときにこそ共有する。

どういうことかというと、下の例のように、成績が伸びたというのは共有しやすいですよね。成績が下がったときにも、例にある声かけのように「共有」することが大切です。

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課題が多い子どもと向き合うとき

課題が多い子どもと向き合うとき、「問題」と捉えずに一緒に取り組む課題と考えてみましょう。なにか問題があると、私たちは解決のアドバイスをしてしまいがちです。しかし、子どもたちはその課題をずっと抱えて生きていくので、課題に向き合う力をつけるためにも、一緒に考える課題と捉えることが大切です。

また、先生だけではご家庭の状況など、変えられないこともあります。変えられないこともあると受け入れつつ、その子の強みを見てあげることも重要です。

そして、一番葛藤しているのは子どもたち自身であり、一緒に葛藤してあげることも支援力だと私は考えています。解決するだけが支援ではありません。

未来を信じて心を朗らかに

子どもたちの心と命を守るために、私一人がその子にカウンセリングをするのはくもの糸のようなものです。そこに子どもたちが来なくなったら私には何もできません。いろいろな方向に、子どもたちを救う場所がたくさんあれば強靭なセイフティネットとなります。先生方にはそのセイフティネットの一つとなっていただきたいです。
そして、子どもたちのためにも、未来を信じて心朗らかにいることを、先生方には忘れずにいてほしいと思います。


★このZOOM講演の内容を、小社公式You Tubeチャンネルでもご覧いただけます。ぜひご視聴ください!

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