自戒という名の独り言

僕の職業はいわゆる「責任者」と呼べるもので、
自分の手を動かしてアニメーションを作ったりする機会はぐっと減り、
ディレクターやエンジニアとの利害関係を調整しつつ、
デザインの方針を決めたり、制作された「もの」に対しての判断と
制作している「人」に対してのケア
がメインの仕事となっています。


こう文章化すると、とても偉い人のように見えますが、
能力的にも高いかと言われると全然そんなことは無く、
特に僕のチームにいるデザイナーはやたらと優秀なので、
僕自信が一番優れていると胸を張れることなんて
「デザイナーなのにやたらと弁が立つ」ことくらいで、
基本的におんぶにだっこで、「頑張れ! 頑張れ!」って応援だけしている毎日です。


先日、こんなことがありました。


現在開発中の新しいゲームのキャラクターがイラストレーターから上がってきました。

普段なら個々のイラストについては、そのパートのリードに判断を任せて
僕自身はノータッチで見守る場面ではあるのですが、
これは「今後のキャラクターの方向性を決める」ものなので、
僕自身にも「どれどれ、どんなもんじゃい」と見るのに力が入ります。


う~~~~~~~~ん、好きじゃない。


具体的に好きじゃない点を挙げるとしたら、
下記のような点でした。

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・最終的にゲームに実装されるサイズはかなり小さい(SDキャラ)ので、
 密度が高く、デザインが逆に見えにくくなりそう

・全身にテクスチャが使われているので、
 アニメーションさせる際の接合に違和感が出そう

・目が小さく、表情変化が見えにくそう

・腕が短く、攻撃時させたときのシルエットの変化が小さそう
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僕自身、絵心に自信のある方では無いので、
キャラクターそのもののテイストや造詣に対しては
それほど多くの要望を持たない(あっても、好みの範囲として言わない)のですが、
今回のものに対しては、ゲームデザインに関わるものなので、
そこはかとなく伝えてみて、「検討します!」と元気な返事をもらえました。

あぁ、これはきっと、僕の望むデザインになってくると確信していました。
ここまで書けば、みなさんもおおよそ理解はできていると思いますが、
結果として、何も変わらない状態で再提出がされました。

僕は、疑問よりも先に憤りを感じました。
なぜ、自分の好みではなく、ゲームのことを考えてのFBなのに
それすらも直してこないのか。


もちろん、このイラストレーターの行動は褒められたものではありません。
変えなかった理由があるのであれば、きちんと述べたうえで僕の意見を否定するべきです。


ただ、僕のこの「そこはかとなく伝えてみる」という行動自体にも
僕自身の反省があると思っています。


このチームは、今年2月に新設されたチームで、
いまいるデザインのメンバーは、今回僕と初めて仕事をするメンバーです。
つまり、彼ら彼女らにとっては、僕は新しい上司にあたるので、
距離感や温度感が分からない、得体のしれない人であることは間違いありません。

これが、前からのチームメンバーだったら、間違いなく指摘が入ったはずです。

「いやいや、これこういう理由で、このデザインにしてるんですよ」

しかし、このコミュニケーションが今回なかった。
これはどういうことか、改めて考えると、言えなかった部分も多分にあるんだろうなと考えました。
気心も知れてない、性格も分からない、沸点も分からない
そういう人に反論するのは勇気がいります。上司ならなおさらです。

僕がきっと、「そこはかとなく伝えてみる」で仕事が完結していると思っているのであれば、
僕と彼ら彼女らの距離感は一生縮まらないでしょう。

ここで投げかけるべきセリフは、
「僕はこう思っているんだけど、どうかな?」
でした。相手に反論する余剰を先に残しておくことで
意見を拾いやすくするのが正解だったのだと思います。


新設のチーム、新任の上司、すべての距離感を図っている最中です。
コロナウイルスの騒動が無くとも、僕と彼ら彼女らの関係値には距離があったでしょう。
僕の仕事は、まず結果を調整することではなく、
中長期的に結果を出し続けるための雰囲気づくりをするべきでした。

仕事なので、仲良しこよし、手と手を取り合って
ズッ友だよね☆ が正しい距離感だとは思いません。
ただ、結果を出し続けるための最適距離は必ずあるはずで
厄介なことに、それは個人個人でも異なるので、
それを探っていかなければいけません。


冒頭に書いた僕の仕事。
「ディレクターやエンジニアとの利害関係を調整しつつ」
ここに「自分のチームのデザイナー」という文字が入っていなかったことで、
いかに僕が、チームメンバーを軽んじていたのかと、反省しかないです。

僕は上司で彼ら彼女らは部下ですが、決して意思を持たない駒ではありません。

自戒を込めて書きました。

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