アリスとテレスのまぼろし工場 感想(ネタバレあり)
こんにちは。今回は岡田麿里監督最新作「アリスとテレスのまぼろし工場」を見てきました。岡田麿里氏の作品は花咲くいろはの頃から楽しませてもらって、全部ってわけじゃないですが多くの作品を楽しませてもらってます。氏の中で一番好きなのはtrue tears。乃絵派。でも一番最初に主人公の唇を奪う愛子も好きです。さよならの朝に約束の花をかざろうはまだ見てません。今度見ます。すみません。
と、今作で岡田麿里氏の監督作品とは初めての体験になったのですが、自分見る(する)と決めた映画(やゲーム)の情報は極力シャットダウンして向かうので、ほぼ情報なしの状態で見ることになりました。
表題を見るにハウルの動く城みたいな感じなのかな(もしくはえんとつ町のプ◯ル?)みたいなのを想像してましたが全然違いましたね。
こっからはネタバレありの感想を書いていきますが、伏せて書くならいい意味で下品、生の感情丸出しな作品だと思いました。でも、じゃあ登場人物たちに感情移入できないというというとそういう訳でもなく、まあ君らならそう動くよね、俺が当事者だったらわからないけど。みたいなふうに見ていました。作画や演技は総じて良く、個人的には見てよかった作品です。横で見ていた男子高校生4人組も、終演後仲間同士でアリスとテレスの意味は~とか楽しそうに感想会してたので楽しんでくれたのかと思います。逆に前でお母さんと見に来た中学生くらいの男の子は気まずそうにしてました。そういうシーンもいくつかあるもんね。お母さんの方は少し涙ぐむ様子も見れましたが……。
万人受けする感じではないと思いますが、トレーナーや中島みゆき氏の主題歌にビビビッと来た方は見てみるといいと思います。
↑映画見た後改めてPV見ましたがなかなかのネタバレソングですねこれw
では感想を。まず、伏線とか裏設定とかは、あるにはあると思うのですが、あまり考えすぎないでいいと思いますし、ここでもそこまで言及しません。大事なポイントはちゃんと説明してくれるので物語についていけないとはないと思います。というか、登場人物たちの感情が一番大きい伏線になり、物語の起伏に繋がってくるので彼らの心情についていくのが一番大事なポイントだと思います。恋する衝動が世界を壊すってポスターにも書いてあるしね。
情報全然見ないで行ったので、現代劇だと思ったら体育のシーンで女子が普通にブルマだったので過去の話なのか!ってびっくりしました。ブルマで判別するなよとは自分でも思いますが。と、思って見ているとどうもこの世界は時が止まっているらしい、一日としては進むけど、日が明けて月日が進むということはない、成長も老いもしない世界という事もわかり、また複雑な世界設定だなと思いました。でも、町の方針として、現実の世界に戻った時にその世界との時差?にブレないように自分の心情を定期的に書き留めて元の形をとどめておくという政策をしています。主人公達もそれに準じていましたが(主人公自体は書くところまではきますが、結局なんか違うとおもって破り捨てて提出しませんでした。)、主人公に恋い焦がれていた一人の少女が主人公に告白して、断られた形になり、それを同行していた他の友人達に見られて見世物にされちゃったと(友人達にそんな気はなかったのですが)、傷心してしまう。すると時が止まって以来永遠に動き続ける製鉄所・神機の煙から狼の様な形になり傷心した少女を飲み込んでともに消えてしまいます。
町としても初めてのことで動揺が走りますが、これが時が止まっなかで激しく動揺すると神のたたりがおきる、神機狼(しんきろう)だ!ということで、より気をつけて行きましょうという説明がありました。(この神機狼に関してなんでという説明はなかったと思います、時が止まった町とともにそういうものですという事にしておいてください。)ここから物語は大きく動いていく感じですね。
登場人物、ざっくり説明するとクールぶってるけど本心では家族や将来の夢、恋愛のことで葛藤を覚えている、絵を書くことが好きな主人公の正宗。周囲からは控えめで優しい印象を持たれているがその実は勝ち気な正確な正宗と同じクラスメイトの睦実。製鉄所の中で隠されて育てられている、この止まった世界の中で唯一成長している野生児のような少女、五実。この3人がキーパーソンになります。特に五実なんですが、野生児と紹介文には書かれていますが、悪い意味ではなく僕には知的障害者のそれに見えました。そしてその浮世に生きているようなただ住まいは、巫女のようにも見えました。(実際神機関係者にも神の子扱いされてます)
作中の町は冬で、閉鎖された空間になっていて、知的障害者?みたいな少女がキーパーソンの一人でとなると、僕の中ではSWAN SONGという美少女ゲームを思い出します。こちらも冬の町が舞台で、主人公たちの町が大型地震によって外部への交通が遮断されてしまい、陸の孤島と化して町の治安が崩れていき混沌としていく物語です。その中のヒロインであり重要人物の一人に八坂あろえという娘がいて、その娘は自閉症で意思疎通がうまく行かず突発的な行動に周囲が振り回されることも多いのですが、かわりに普通の人にはない不思議な能力を持っているという設定です。どこか似ている感じがありませんか?最も一応の秩序を保っているアリスとテレスの世界に対して、SWAN SONGの世界は物語が進むごとに混沌としていき、血で血を洗うエンドもありますし、五実の方は仲間との交流を得てどんどんコミュニケーション力あがっていきますけどね。
また自分にSWAN SONGを彷彿させるキャラクターとして、アリスとテレス~に佐上というキャラクターがいます。彼は元の世界では小さな神社の跡取り息子で、神社の収入では生活できず、後に神機になる製鉄所の平社員として働いているしがない男でした。元々妄想癖というか言動が芝居じみてて、周囲からは変わり者として距離を置かれていた存在でした。然しながら、時の止まった異常事態になったこの世界では、神主ということもあり科学的以外でも説得力を持つ発言ができる人物として(人々が納得を覚えれる、とりあえずすがれる存在として)徐々に力をつけ、最終的に町のリーダーとなっていきます。最も、あるタイミングで失脚し、最後には数人の信奉者に持ち上げれるだけになりますが。陰謀論者みたいなものですね。
一方のSWAN SONGは鍬形拓馬という青年がいます。彼は主人公たちと一緒な大学に通う、趣味はパソコンの臆病な子なのですが、劇中での震災からの混沌とした世界を生き延びるために過激な行動に出ることも多く、仲間内でも衝突することが多いのですが、最後には世界を彼なりに守るために組織を作り主人公たちにも牙を向いてくるというキャラクターです。彼の行動でエンディングの行き先も変わってくる、ある意味裏主人公的存在でもあります。
二人に共通するのは、日常の世界では日陰者だったのに、非日常ではやり方の良し悪しはあるにしても自分の居場所を持つことができて、支持者もできて承認欲求が満たされる、充実した日々になっていくということですね。行動の結果としては許されない者達ですが、動機としては理解できてしまう部分もある二人で、双方どちらも物語後の世界でも幸せを見つけてほしいなと思います。
なんで岡田麿里氏の映画の話なのに瀬戸口廉也氏(SWAN SONGシナリオライター)の話になってきているんだと思うので、このへんで関係性の話はやめておきます。ただどちらも好きなシナリオライターなので、ちょっと話しておきたかった、そんな出来心です。SWAN SONG、18禁ゲームですがおすすめです。岡田麿里氏の癖強めなシナリオいけるなら瀬戸口氏のシナリオも行けると思います。文章自体は読みやすいし、良くかけていると思います。かけすぎていてグロシーンとかも生々しくはあるのですがw
閑話休題。
この作品での時の止まった世界とは何を表していたのでしょうか。平成初期から停滞している日本という国という視点(実際サントラに1991という曲名があるようにそのあたりから彼らの町が止まっていると思います)、ビューティフル・ドリーマーのオマージュ、コロナ禍からの閉塞感漂う世の中の暗示、SNSでも人それぞれの多様な解釈がありました。
僕個人の解釈としては、亡くなった人から現世で生き残っている人へのメッセージだと感じました。五実自体は現世からこの時の止まった世界に来た「生人」であり、この世界でも成長できる。むしろ五実視点からみれば、周りの住民は時が止まったままの人、死人であり黄泉の町である。主人公は冷たさや痛みが感じにくいのに対して、五実のラストは痛い痛いと泣きじゃくるものです。痛みを感じるのは生きている証であり、生者の特権であると僕は考えます。そして、五実が時が止まったまま町から現実の世界に帰るのは盆である、死者が家族の元へ帰っていく日である。現実で五実が行方不明になり、感情が喪失したように探し続ける両親の元へ五実が黄泉から帰ってくる話と解釈できます。主題歌の中島みゆき「心音」の歌詞を引用すると『未来へ 未来へ 未来へ 君だけで行け(ゆけ)』と、虚構の、黄泉の国から五実を送り出す心情が読み取れます。五実のいなくなった世界でこの虚構の町がどうなるかわかりませんが、停滞した世界からの変化を臨んだ主人公正宗達の思いは形となり、未来を生きていく若者に返せての歓喜だったのかなと見ていて思いました。正しいか正しくないかなんてわからない、けど一人の少女を元の世界に返したいという衝動だけが彼らの行動原理であり、また衝動というシンプルな力はは人間として一番強い力を発揮するんだ、その衝動を大事にしなさいという岡田監督から見ている人へのメッセージなのだとも感じました。
重ねて書きますが、万人受けする作品ではないと思います。衝動に任せたティーン(中身はアラサー…のはずですが見ていてそんな気はしなかったかな、ネバーランドに閉じ込められた人々のように見えた)が相手の涙を舌で舐め取ったり、生々しいキスシーンは下手なセックスシーンよりエロチックに感じました。また結構ライブ感で物語が動くので、いきなり話動いた!ってなるし、すべて解決して終わる話でもありません。人によってはハッピーエンドともバッドエンドとも取れるかも。(そのあたりは似たテーマのサニーボーイを彷彿させます。)
しかしながらパンフでも書かれている岡田麿里純度200%の作品、それは監督一人だけでは出せるものではなくスタッフ一丸となって『岡田麿里』色を創り上げていくという意味だと思いますし、原液飲まされているというよりは濃厚な味のまま何年も寝かせて創り上げたウィスキーを飲んでいる感覚でした。平松 禎史副監督を筆頭に優秀なスタッフたちが演出、作画しているので映像作品としても一級品です。
また、比べるのも違う気はしますが、新海誠監督作品が東京や首都圏を舞台に展開する作品が多いのに対して、岡田麿里氏の作品は秩父などの地方を舞台にした作品が多いので、そういう意味でも登場人物たちの心情に乗りやすくて好きな部分もあります。今作も釜石や箱根を取材してモチーフにしているらしいですし。
今公開2日目での文になりますが、SNSで観た人のコメントの熱量の割には、人の入り数は少ないと言わざるを得ません。初日はランキング6位スタートという情報もありますし、実際自分が見に行った時も上映2日め土曜の入りとしては少し物足りない部分もありました。
ただ、作品としてはもっと人気出るポテンシャルあると思うので、口コミとかで人気出てくれたらいいなあと1ファンとして思うのでした。
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