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犬が死んだ

慢性腎臓病だった犬が死んだ

10歳の私にできた、最初で最後の妹だった

私は24歳になった

家が耐えられなくて実家を出て、
もう7年が過ぎている

犬は、すっかり母親を1番の飼い主と思っているだろうと思っていた。

だけど犬は、
慌てて帰ってきた私の腕の中で亡くなった

腕の中で、水と栄養剤を飲ませていた時だった
突然、こわばっていた身体が脱力した。

腕にかかったあの重みと
一瞬、だがじっと、ただ静かに
私の顔を見つめてきた澄んだ瞳が
焼き付いて離れない

それはあまりにも突然で、
わたしは言葉が出なかった。

ただ、脱力した時に腕にかかった重みは、
昔の「太り過ぎじゃない〜?腕が凝る」と揶揄っていたあの頃の重みとそっくりだった。
あんなに抱っこするのも恐ろしくなるほど痩せ細っていたはずなのに。

静かにじっと見つめてきた瞳は、
意識があるかどうかも分からない、力のない瞳ではなかった。
私の腕に、顔も身体も全て預けたまま、
キラキラと澄んだあの見慣れた瞳で、じっと私の顔を見ていた。
いつも、私が顔を見ようとしても、
背けてばかりだったくせに。

なぜ、私の腕の中だったのと聞きたい。
あなたが病気になって、必死に手足を動かしていたのは母親だった。
私は、電話越しに母親から状況を聞いては、
自分なりに調べて、提案をしてみることしかできなかった。

あなたが病気と必死に闘っていた最後の姿を
私は、ほとんど見ることすらできていなかった。

「待っていたんですね。会って、気が抜けたんでしょう」と病院の先生は言った。

それを聞いた母親が
「じゃあ、あなたがもう少し遅く帰っていたら、まだもうちょっと生きていたかもしれない」
と言った。

心が苦しかった。
今も。

ねぇ、モコちゃん
一緒に年を越したかった。
私が、慌てて帰るなんてことしなければ、
もう数日、命はありましたか?
パパが帰ってくるのも、一緒に待てたかな

なにが正解だったか、分からない。
あなたの最後はこれでよかった?


分からない。
もともと離れて暮らして長かったから、
そんなに寂しさは感じないと思っていた。

だけど、全然そんなことないや。
苦しい。すごく苦しい。
あなたがいなくなってから、半身を失った感じだよ。
自分という人間が、なにか分からない。
本当に、私の半分はあなたできていたみたい。

死ぬことは、姿形が無くなることだけだと思っていたのに、なにがこんなにも違うんだろうね。
驚きだよ。
考えも想像も軽かったみたい。

でもね。
あなたは私に、「死」というものを身をもって教えてくれた。
私、誰かを看取ったのあなたが初めてだよ。
ありがとう。最後まであなたは利口で美しく、愛らしかった。


あなたは私の、最初で最後の、そして唯一の妹
大好きだよ

あなたがいない世界で、強く生きてみせるよ
そして、あなたが最後にくれたものの意味を
必ず見つけてみせるよ

あなたはどう思ってたか分からないけど、
一応あなたの姉より


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