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おカバさま(未来いそっぷ収録) 星新一著/新潮文庫

 2020年、未知のウイルスが世界中の人々を不安に陥れました。まだウイルスの全容が知れない中、学校や幼稚園は休校になり、街角からは人の姿が消え、私たちの「ステイホーム」が始まりました。そんなころ、見直されたのが読書でした。読んだことのないジャンルに挑戦、家族と一緒に読書など、普段と違う時間が作れるかも。そのお手伝いとして、京都新聞社の記者がそれぞれ思いを込めた一冊を紙面で紹介しました。あの頃の空気感も含め、note読者の皆さんにも紹介します。

「お告げ」すがる危うさ 

 新型ウイルスによる災禍とAI(人工知能)を駆使した対策に心がざわつく中、昔読んだ短編を思い出した。

 大きく精巧なコンピューターに社会の運営を任せるようになった近未来。平穏に暮らす人々に、あるときAIが「これからはカバを大切にせよ。指示に逆らうものは厳罰に」と告げる。新法の下、街を自由に歩き回るカバに、人も車も道を譲らねばならない。

#危機をどう乗り越えるか

 各所にプールが造られ、保護されたカバは増える一方。皆が疑念を持ち始めた頃、家畜の伝染病が大流行する。牛や豚が全滅する中、AIが出した指示は。そしてさらなるお告げとは-。

 ビッグデータ運用の加速や9月入学制など、コロナ対策の名目で浮上するさまざまな「改革」。危機にうろたえて特効薬にすがりがちな私たちに、その危うさをショートショートの名手は少し意地悪な結末で教えてくれる。


道又隆弘