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美味しんぼ 作・雁屋哲 画・花咲アキラ/小学館

 2020年、未知のウイルスが世界中の人々を不安に陥れました。まだウイルスの全容が知れない中、学校や幼稚園は休校になり、街角からは人の姿が消え、私たちの「ステイホーム」が始まりました。そんなころ、見直されたのが読書でした。読んだことのないジャンルに挑戦、家族と一緒に読書など、普段と違う時間が作れるかも。そのお手伝いとして、京都新聞社の記者がそれぞれ思いを込めた一冊を紙面で紹介しました。あの頃の空気感も含め、note読者の皆さんにも紹介します。

 現代人うならす人情味

 自宅で過ごす時間が増え、最近よく自炊をする。本書に登場する「究極のメニュー」には及ばないものの、うまい飯と酒を求めて日々台所に立つ。

 酒飲みでぐうたらだが食には造詣深い新聞記者・山岡士郎と同僚の栗田ゆう子が主人公のグルメ漫画。出てくる料理は多岐にわたり、うんちくが満載。ちょっとした食通気分を味わえる。

#究極のメニュー


 人情味ある話も多く、「トンカツ慕情」(11巻第5話)は名作の一つ。「トンカツをいつでも食えるくらいになりなよ。それが、人間えら過ぎもしない貧乏過ぎもしない、ちょうどいいくらいってとこなんだ」。トンカツ屋のおやじが苦学生に送った言葉は、働き過ぎの現代人の胸にも響くはず。

 思えば、幼い頃に新聞記者という職業を初めて知ったのも本書だった。連日の二日酔い、勤務中に居眠りし競馬にも行く山岡。そんな記者像は実際に新聞社に入り、あっさりと打ち砕かれたが。


田中俊太郎