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父・こんなこと 幸田文著/新潮文庫

 2020年、未知のウイルスが世界中の人々を不安に陥れました。まだウイルスの全容が知れない中、学校や幼稚園は休校になり、街角からは人の姿が消え、私たちの「ステイホーム」が始まりました。そんなころ、見直されたのが読書でした。読んだことのないジャンルに挑戦、家族と一緒に読書など、普段と違う時間が作れるかも。そのお手伝いとして、京都新聞社の記者がそれぞれ思いを込めた一冊を紙面で紹介しました。あの頃の空気感も含め、note読者の皆さんにも紹介します。


家事指南 愛情込めて

 父が世に知れた作家だったら、子は何を思う!? この一冊は、幸田露伴のことを娘の文がつづる。

 『こんなこと』には、大正時代の幸田ファミリーの日常生活、特に露伴先生が10代半ばの文さんに家事を中心に、あれこれ仕込む様子が描かれている。例えば掃除。ほうきのかけ方、複数のはたきの使い分け、バケツに入れる水の量、ぞうきんに適した布の種類…となんと細かいことか。

#父と娘の関係

 露伴先生は、貧しく、兄弟の多い家に育ち、家事を担った。その時培った知恵と工夫を、生母を亡くした文さんに伝える。不器用を自称する娘に辛らつな言葉もぶつけるが、知的でユニークな話を交えて教える。愛情たっぷりの父、畏れを抱きながらも父を慕う娘のやりとりに、顔が緩む。

 もう一つの作品『父』は、露伴先生が亡くなるまでの日々と葬送の模様を書いた「父の終(おわ)りの記録」だ。


松本邦子