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ビデオゲームの歩みを旧小学校舎で体感    大阪・山中渓で開催中の第2回「レトロゲーム博物館計画 資料展示会」

 JR京都駅から電車を乗り継ぎ、大阪環状線を経て阪和線に至り約1時間50分。大阪府阪南市の山中渓(やまなかだに)駅に降り立った。

大阪府内ながら自然にあふれた山中渓駅

大阪と和歌山の境の山中に何が…

 阪和線の駅としては大阪府最南端の駅として知られ、大阪市街地の高層ビルが立ち並ぶ風景からは一転、駅名が土地柄を示すように、周囲にはのどかな山中の自然が広がる。ここへはキャンプを楽しみに来たわけでも、いわゆる「秘境駅」を満喫しに来たわけでもない。この地でビデオゲームの誕生から、十数年前ほどまでに登場した数々の「レトロゲーム」文化の歩みを学ぶためだ。
 
 紀州街道の古い町並みが残り、桜の名所としても知られる山中渓。レトロゲームと何の関係があるのだろうかと疑問に思うが、ここで今月31日まで、NPO法人日本レトロゲーム協会(JARGA)による『レトロゲーム博物館計画 資料展示会』が開催されている(無料・開場時間は午前11時~午後6時)。

小学校分校の旧校舎が会場。ピコピコ音が聞こえてくる。

そこはレトロゲームの桃源郷だった

 駅から5分ほど歩くと、会場の大阪府阪南市立朝日小学校旧山中分校が見えてきた。旧校舎からは、心地よい電子音が時おり聞こえてくる。同協会の倉庫兼作業場が同市にある縁から協力を受け、十数年前に廃校となった同分校を会場として借りることになったという。校舎をそのまま活用した会場を見て回ると、教室には発売から今年で40周年を迎えた「ファミリーコンピュータ」(任天堂)はもちろん、トミー(現タカラトミー)の「TV FUN」シリーズやアメリカの玩具メーカーコレコが発売した「コレコビジョン」などが並んでいた。廊下では「バーチャルボーイ」(任天堂)や「TVボーイ」(学研)のゲームが遊べるようになっている。

独特のコントローラーが特徴のコレコビジョン。付属ソフトはドンキーコングだった。

 靴箱をのぞいてみると、中に電子ゲームの本体がずらり。学校内部に堂々とゲームがあるという事実に、在学当時なら先生に怒られないかビクビクしただろうなと少し罪悪感めいたものを感じながらも、学校ならではの環境を生かした遊び心が伝わる展示方法に、自然と笑顔になっていた。

靴箱にずらりと並ぶ電子ゲームたち。こんな学校だったらとても楽しかっただろうなあ。

なぜ、いまレトロゲームなの?

 しかしなぜ今、レトロゲームなのだろう。

 1997年からゲーム専門のリサイクル事業に取り組んできたという、同協会の石井豊理事長(50)は「元々ゲームが好きだったこともありますが、捨てられた末に廃棄物として処理されているゲームを見ているなかで、日本の家庭用テレビゲーム機やゲームソフトの歴史を文化遺産として後世に残していくことが大切だと再認識したからだろうと思います」と教えてくれた。

日本レトロゲーム協会の石井理事長。膨大な所蔵品を展示している。

 歴史や文化を残すためには、何よりもまず現物の保存が重要だという考えから活動を始め、2016年に同協会はNPO法人に。「レトロゲーム博物館」の完成を目標に、17年には第1回目の資料展示会を、同協会の倉庫兼作業場で開催。国内外を問わず、多くの来訪者が集まった。20年にはコロナ禍の影響で、自宅待機を余儀なくされる子どもたちに向け『ファイナルファンタジーVI』や『スーパードンキーコング』をセットにした「スーパーファミコン本体セット」を100世帯に無料配布する取り組みを行ったほか、現在ではひきこもりの人たちとゲームを通じ交流することで社会復帰を目指す支援活動もしている。
 
 会場に並ぶレトロゲーム関連の展示物は同協会が保存している約500点。

 石井理事長は「正直多すぎて数え切れていません。細かいものも含めたらもっとあるかもしれない」と笑顔を見せる。

世界各国のソフトから「ふっかつのじゅもん」まで

 ファミリーコンピュータやディスクシステム(任天堂)、メガドライブ(セガ)などの、世界各国の多様なバージョンも含めた本体、ソフトなどが所狭しとあるなか、「ドラゴンクエスト」(エニックス)などで当時の子どもたちが書き残した「ふっかつのじゅもん」メモといった変化球的なものもあり、飽きさせない。

来場者に「今の若い子たちは、カセットテープがそのままゲームソフトとして使われていたことを知らない!」と話したが、「カセットテープ」そのものが知られていなかった…。

 右腕に装着し、指の動きをセンサーで伝えファミコンのゲームを操作する「パワーグローブ」(米・マテル、日本ではパックスコーポレーション販売)の展示前。20年ほど前に両腕にこれを装着したら格好良いだろうと考えて新品を2つ入手したものの、どちらも右手用であることに入手後にやっと気が付き半泣きになった経験を思い出し、変な表情になった。私のパワーグローブは、今でも新品のまま放置。パックスの、ならぬ自分自身のしわざである。

 目を引いたのが、FM音源聴き比べシステムのコーナー。
 FMサウンドユニットを装着したセガマーク3(セガ)と、未装着の同ハードで同じゲームの音楽を聴き比べることができる。同ユニットを活用することで一気に重厚感が増す音楽と、そのままでも聴きごたえがあるゲーム音楽。お金がなくて当時は友達の家で聞くことができたりできなかったりした、あのサウンドユニットの実力を今、肌で体感できるのは貴重な経験だ。

FM音源聴き比べのコーナー。重厚な音の素晴らしさはもとより、サウンドユニットなしの音楽も味わい深いのがわかる。聴き比べならではの価値だろう。

ここまでくると文化遺産ですよ

 1980年代の大阪・日本橋界隈のゲーム店などを紹介するミニコミ誌や、80~90年代の中古ゲーム販売店などによるゲーム買い取り価格表など、当時は何気なく見逃していたものの、現在から見ると当時を知る貴重な資料になっている品々も興味深かった。

昔のファミコンソフトなどの買取価格表。レトロゲームの高騰が指摘されるなか、来場者から「あのゲームがこの値段で!」と驚きの声があがっていた。

 ゲームセンターなどに設置されていたメダルゲーム機『スーパーマリオアタック』に取り付けられていたタイトル板は、石井理事長が廃棄物処理場にある廃棄物の山の中から見つけ出し、回収するまでの様子を写真とともに紹介している。

『スーパーマリオアタック』のタイトル板。写真にある通り、廃棄物の山の中から「発掘」された。

実際に遊べるゲームも

 遊ぶことができるゲームで人気だったのが、アメリカで1983年にリリースされたエレメカアーケードゲーム「Ice Cold Beer」を、同協会の関係者が卓上サイズで小さめに再現した「Ice Cold Beer Mini」。

人気を集めた『Ice Cold Beer』。精密かつ大胆なプレーが要求される。

 ビールの泡に見立てた金属のボールを、盤上にある1~10の穴に順番に入れていくというゲーム。ボールを操作する器用さと、大胆に目的の穴に向かって進む強い意志が問われる内容で、単純なルールながら来場者たちの心をつかみ、上級者のプレー中は愛好者たちが周囲に集まり技を見学し、好ブレーがでるたびに拍手が巻き起こっていた。

ひとりひとりの思い出がよみがえる

 これまで遊んできたゲームによって、それぞれの人たちが注目するところは異なるかもしれない。

教室を活用した展示会場。本体やソフトだけではなくポスターやコントローラーなども展示されている。

 しかし、現状なかなか目にすることができない貴重な品々が一堂に会しているこの旧校舎で、大人は童心に帰り若い世代はこれまでの歩みを振り返りながら楽しんでいた。展示会は、31日まで休みなく開催。自然を体感がてら、夏の思い出として訪れる価値は十分すぎるほどあるように感じた。


人見 勅輔(好きなレトロゲームは『ゲゲゲの鬼太郎 妖怪大魔境』)