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17.まさに胸を借りるセッション

 現在、Irish PUB fieldは休業を余儀なくされていますが、そんな折り、2000年のパブ創業以来の様々な資料に触れる機会がありました。そこで、2001~11年ごろにfield オーナー洲崎一彦が、ライターのおおしまゆたか氏と共に編集発行していた月刊メールマガジン、「クラン・コラCran Coille:アイルランド音楽の森」に寄稿していた記事を発掘しました。

 そして、このほぼ10年分に渡る記事より私が特に面白いと思ったものを選抜し、紹介して行くシリーズをこのnote上で始めることにしました。特に若い世代の皆様には意外な事実が満載でお楽しみいただけることと思います。

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 今回は、The Liffey Banks Trioのメンバーが来店された時のお話です──。(Irish PUB field 店長 佐藤)

↓前回の記事は、こちら↓

まさに胸を借りるセッション (2003年9月)

 これまで、私はこのコーナーにセッションというものをテーマにして色々と駄文を書き殴って来たわけだが、今回は 「いやあ、やはりセッションというのはナマモノやなあ~」というお話。    

 かつて、わがfieldアイ研では、イクシマぶちょーと私の間で、セッションに対する意見が微妙に食い違っていた時期があった。そのころの彼は猛烈に熱く、「セッションは戦いだ!」と豪語した。そのあたりから私も色々と考えを巡らせるようになり、昨年末頃に「セッションはコミュニケーションだ」と結論して現在に至っていた。  

 だが、昨日! 私は軽い気持ちで参加すると、いとも簡単に跳ね返され、気が付くともうこちらは挑戦的気分でいっぱい。終わってみると、関取にひょいと片手で押し出されてしまうようなセッションを経験してしまった!  

 昨日は、来日ツアー中の The Liffey Banks Trio の面々が徳島公演の帰りに field に立ち寄ってくれて、field が3階に新しく作ったスタジオでそれぞれの楽器のレッスン会が行われた。そして、その後は階下のパブに降りて来て宴会モードになり、いつしかセッションになだれ込んだというストーリー。  

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↑The Liffey Banks Trioとの写真
(前列左からハリー・ブラドリー、ポール・オショネシー、タラ・ダイアモンド)

 ハリー・ブラドリーさんが 「どーしても、今、インターネットを見な、わしの人生エライことになるんじゃ」 みたいな事を口走って割と機嫌悪そうなので、field の Mac でネットにつなぐのだが、何故かこの日に限って調子が悪い。ハリーさんの顔を見ていると、これは何とかせにゃ!という気になってきて、field にある全ての Mac をネットにつないだ。その内の1台がやっとつながったので、ハリーさんを狭い事務所の一番奥に引っ張り込んでマウスを握らせる。結局彼の見たかったページのセキュリティーか何かの問題で日本からは入れないみたい~とかなんとかで、 がっくり肩を落としながらも、ハリーさんはすっかり機嫌をなおしてセッショ ンの輪に帰って行ったので、私もほっと一息ついて 「これでやっとセッションに加われるぞ!」 と、自分の楽器を出して来て、勇んでセッションの輪の末席に加わった。  

 隅っこでちゃかちゃか合わせている分には、まあ、和気あいあいとした普通のセッション。時々知らないチューンが出て来たりするのが新鮮!といった感じだったのだが、何やらワサワサと人が出入りしたかと思うと、わたしゃポール・オショネシーの真横でブズーキ抱える格好になってしまった。  

 元々、北部のフィドルが好きな私は、不勉強もあって、今回のメンバーで知ってるのはポールさんだけだったし、知ってるも知らんも、前にアルタンの皆さんが来た時も、ポール・オショネシーも一緒に居るもんやと信じこんでて大恥かいたてなもんなのだ。それに、写真でしか見たことなかったポールさんの顔は非常に怖い。失礼だけどこれホンマ。実際は笑顔の耐えない人だったので助かったが、もし、笑顔が無かったら、泣くかもしれんほど怖い顔やで!!

 そして、演奏中は絶対ニコリともしないこの怖い顔のままキープ体勢なのよ!! 

 いやいや、顔のせいにしてはいけませんね。せっかく真横に来たんやから、この人のばりばりドニゴール印のフィドルを一音も聴きもらすまいと、彼の音を必死に集中して聴く。  

 私はブズーキという一応リズム楽器だから、通常初めて入るセッションでは、 中心になるメロの人のノリをつかむまでは、なんとなく当たり障り無い少ない音数で入って行き、少しづつさぐりながら、ガツンガツンとひっかかりを入れて反応を確かめながら進むというような手順が多いのだが、この時ばかりは驚いた! 

 なんとなく当たり障りのない所で~チャラン。と、入った瞬間跳ね飛ばされた感じ。

 「え?」って感じ。もう一度、今度は彼の足踏みを見ながら拍を合わせて慎重に~チャラン。あかん! 弾き飛ばされる! 

 ということは、 もう初めから一か八か全力で入って行くしか無いんですかい?? 

 確かに、いかついフィドルだった。野球では同じ球速でも重い玉、軽い玉の違いがあると言うが、ポール・オショネシーの玉はズッシリ重い。凄く対称的なのはたぶんマーティン・ヘイズあたりかな?剛速球で三振の山を築くタイプのマーティン流は時には大ホームランを打たれるタイプ。それに比べてポール・ オショネシーの玉は打てそうで打てない。打ててもセカンドゴロになるような玉。  

 彼の出す音の中には、すでに、リズム、メロディー、ハーモニーの全ての要素がぎっしり詰まっていて、軽々しくリズムで参入しても簡単に弾かれてしまうのだ。 

↑ポール・オショネシーによるリールの独奏。

 私は、珍しく挑戦的気分に陥り、「ここはひとつ、怒られてもいいから、胸を借りるつもりで、思いっきりぶち当たってやれ」と燃えてしまった。  

 ありゃりゃ、何年か前にイクシマぶちょーが言ってた所の「戦い」ってこれかいな?  

 そして、私は、相棒のクヌギ君とやる時以外には滅多にやらない、ベース・ ラインあたりをうろうろして相手を油断させておいてから一気に高音弦に駆け上がる「す印ハラヒレホレハラ奏法」を突然ぶちかました。  

 そしたら、怖~い顔のポール・オショネシーにギロリと2回睨まれたよ~ん。 え~ん、もうしません、もうしません~。  

 そう。時には、やはりセッションは戦いなのだった。

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↑fieldの壁にかけられているメンバー3人のサイン。

<洲崎一彦:Irish pub field のおやじ・現状~充電とか放電とか言い訳するのは止めて、バッテリーの故障を1から直そうと思うこの頃です‥‥>

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