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19.季節はずれのルナサ現象?

 2020年5月、Irish PUB fieldは休業を余儀なくされていましたが、そんな折り、2000年のパブ創業以来の様々な資料に触れる機会がありました。そこで、2001~11年ごろにfield オーナー洲崎一彦が、ライターのおおしまゆたか氏と共に編集発行していた月刊メールマガジン、「クラン・コラCran Coille:アイルランド音楽の森」に寄稿していた記事を発掘しました。

 そして、このほぼ10年分に渡る記事より私が特に面白いと思ったものを選抜し、紹介して行くシリーズをこのnote上で始めることにしました。特に若い世代の皆様には意外な事実が満載でお楽しみいただけることと思います。

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 今回は、fieldのセッションにルナサのコピーバンドをしているという若手ミュージシャンたちがきた時のお話です──。(Irish PUB field 店長 佐藤)

↓前回の記事は、こちら↓

季節はずれのルナサ現象? (2003年12月)

 今月は、恐らく、リバーダンスの回想やケルティック・クリスマスの話題で持ちきりだと思うが、私はリバーダンスも見られなかったしケルクリに行く予定も今のところ無い(寂し・・)ので、いつものペースで身の回り半径地下鉄2駅分ぐらいの範囲の話題でお許しを~。  

 面白い若者たちが出てきた。探す気で探せば、全国にはこういう人たちがけっこう存在するはずだとは思っていたが、なんとまあ彼らはこの京都に生息していた。まったく灯台もと暗しだった。

 それは~    ルナサ完全コピーバンド! の皆さん   

 極端に言えば、彼らはアイリッシュ音楽の事をほとんど知らない。ただ、たまたま手にして猛烈に気に入ったCDがルナサだったということ。そして、たまたま楽器ができる仲間がいてコピーを始めた。楽器はバイオリン、ギター、 ウッドベース、ケーナ。 私は人づてに彼らの存在を知って、一度fieldセッションに遊びに来るように伝えてもらった。そして、彼らはやってきたのだ・・・。

↑アイルランドのスーパーバンド「ルナサ」2007年のライブ映像。

 彼らがルナサを演奏するに至る経緯を考えると当然なのだが、彼らはセッションというものを全く知らなかった。楽器を抱えたまま困ったような面もちで音も出さずに座っている彼らに、

「いつも、自分たちがやってる曲をやってよ」

 と水を向けるや否や! 一気にもの凄いソリッドなルナサ・サウンドが炸裂した。あっけに取られたまま、私たちも知ってる曲だったので一緒に合わせようとした。しかし、まんまCD通りのアレンジでブレイクやセクション、転調なんかがめまぐるしく入って来てとても合わせられないよー。  

 でも、そういう彼らに対してある意味懐かしく好感が持てたのも正直な所だった。何年か前の自分も確かにこういう感じがあったかなあという感慨もあるにせよ、何というか、ルナサというアイリッシュのグループがすでにアイルランドの民謡という要素を意識せずに聴かれ、感動を呼び、真似をしたいと思わせた事実。また、それにまったくの直球で反応した彼らの姿勢が気持ちいい。そういう感動に対するどん欲さと、ある意味若者の特権でもある軽さ。その感性がたまたまルナサに引っかかったんだという事に色々と想像を巡らしているだけで思わずニンマリしてしまう。  

 私の記憶の限りでは・・・・

「実は民謡的なものがまったく新しい音楽として創り変えられてそのカッコ良さに打ちのめされた!」  

 と言えば、さしずめチックコリアの16ビート・サンバが登場した時代を思い出すのだが・・・・(結局フュージョンか?)。

 あんな風に新鮮でカッコいい!  きっと彼らはルナサに同じような夢を感じているに違いない、などと想像すると何とも懐かしいというか、嬉し恥ずかし感を伴って無条件に彼らに声援を送ってしまうというものなのだ。  

 この先、彼らの感性はアイリッシュに留まる事にはこだわらないだろうし、セッションに参加できなくて悩む事もないだろう。それだけの真っ直ぐさが、 彼らの感動と表現の間の直結具合に現れている。彼らの直球勝負を見るにつけ、アイリッシュ音楽は別に特別なものではなく、ただ「音楽」なんだという当たり前のことを実感させられる。    

 一部のアイリッシュ・ファンは嘆くかもしれない。セッションにまともに参加できない彼らを評価するどころか邪魔者扱いする意見が出て来る恐れが無いとは言えない。 ただ、この日のセッションで、彼らが堂々とぶちかましたルナサ完全コピー のサウンドは、fieldセッション始まって以来最大ではないかと思える程の、遠くの席で別に演奏を聴いている風でもなかった一般の飲み客からも一斉に盛大な拍手が送られてしばらくの間鳴りやまなかったのだった。  

 「そりゃあ、ルナサのモノマネをしたんなら一般人にもウケるでしょうよ」 なんて言ってるあなた! 

 それは年寄りのボヤキというもんでっせ。

  <洲崎一彦:Irish pub field 今年は充電、充電とこだわり続けた1年でしたが、いくら充電してもシマリが無くなると放電、放電で垂れ流して年の瀬。>      

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