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折々の絵はがき(18)
〈ぼく、ポン・ド・ラルシュ〉(パパ撮影)
1903年 ジャック=アンリ・ラルティーグ
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「それっ!」とばかりにベンチから飛ぶのは9歳のラルティーグです。なんというシャッターチャンス、眺めていると何かが胸に湧き上がります。この瞬間、彼はきっと着地することなんてみじんも考えていません。ラルティーグが彼の全部で飛ぶ喜びを味わっている様子と、その彼をカメラからのぞくパパの「いいぞ!飛べ飛べ!」とでもいうような温かい視線が合わさり、この写真は一点の曇りもない笑いに満ちています。光と影が浮かび上がらせる服のしわが、小さな身体にエネルギーを満々とみなぎらせた彼の躍動感を静かに伝えています。
ふと、子どもの頃に飛んだ石段を思い出しました。写真を見ながら、頭はそこに写っていない時間へ思いを馳せ、気が付くとまるで何かのふたが開いたように遠い記憶の断片がこぼれてきます。写真ってちょっと魔法みたいだなと思うのはこんな時です。目はそこへ置いたまま、心だけを遠い思い出の散歩へ連れ出してくれる。きっとラルティーグも、この一枚を見ながら何度もあの幸せな一日を振り返ったでしょう。それがどんなにささやかなものだったとしても、本当の体験とその記録は長い人生を彩り、生きる助けにすらなるのかもしれません。
ジャック=アンリ・ラルティーグは、1894年に生まれ、8歳のとき父親に買い与えられたカメラを手にしてから92歳でこの世を去るまで、写真に魅了されつづけたアマチュア写真家です。彼は興味のおもむくまま、日常の幸せな瞬間を記録し続けました。暗室での現像中、次第に浮かび上がるこの写真を見てパパとラルティーグはまちがいなく大きな歓声をあげたでしょう。わたしの胸に湧き上がったのも彼らと同じ歓喜。胸がすくような気持ちよさと、ぱっと霧が晴れるような歓喜でした。
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