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折々の絵はがき(20)

〈四季花鳥図巻〉酒井抱一 江戸時代 東京国立博物館蔵

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◆絵はがき〈四季花鳥図巻〉 酒井抱一 TW-001◆

 耳をすませば、軽やかに花を縫って飛ぶ二羽のさえずりが聞こえてきそうです。まるでおしゃべりに興じているみたいな風情で、それに応えるように梢が楽し気に揺れています。絵を眺めていると、遠くから聞こえる鳥の鳴き声や幹の乾いた手触り、日なたの匂いなど、ここには描かれなかったものまで次々と浮かび上がってきます。

 つばめは南の国で暖かい冬を過ごしたあと、春を迎える日本へやってくる渡り鳥です。ひとたびここと決めると彼らは毎年同じ場所に巣を作る習性があり、だから迎える家のひとや通りがかりの私たちも毎年彼らを待ち、どこか祈るような気持で日々の子育てを見守ります。しゅっと目にも留まらぬ速さで彼らが横切る春は、多くのひとがよその家の軒先をそわそわ見上げる季節でもあります。何度も行き来を繰り返し、必死に巣作りをする様子に、小さくおかえりと声をかけるひとはきっとたくさんいるでしょう。

 江戸琳派の祖 酒井抱一は姫路城主の孫として江戸に生まれました。早くから書画や俳諧、浮世絵など様々な文化に親しみ、後年には、異なる時代を生きた絵師 尾形光琳の表現を独自に学びました。『四季花鳥図巻』の木の枝に見られる、にじみを活かした「たらし込み」の技法には光琳の画風を受け継いでいることが見てとれます。時の流れを表すような、7mと長い上下の絵巻には60を超える植物と鳥や虫が描かれ、かすかな変化を重ねて次第にうつろう季節が表されています。身近な世界はよく見ればこんなにも美しいと抱一はそっと教えてくれるようです。つばめたちはそろそろ到着する頃でしょう。うながされるように見上げた近くの木々には真新しい芽がいくつも顔を出していました。

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