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折々の絵はがき(60)

◆絵はがき〈高台寺界隈〉上村淳之◆
昭和48年 京都文化博物館蔵

絵はがき〈高台寺界隈〉上村淳之

 連なる山々を背景にして、建物は木々に守られるようにそっと佇んでいます。絵はがきから感じるのは初夏の気配。京都の東山の山すそには清水寺や八坂神社、知恩院や法然院などたくさんの寺社があり、この高台寺もその一つです。中心地からそう離れているわけではありませんが、ここには不思議なほど喧噪が届きません。辺りには木々が美しく茂り、思わず目を閉じて深呼吸したくなるような澄んだ空気に満ちています。空からは柔らかな日差しとともに、山鳩やヒヨドリなど野鳥ののどかな鳴き声が耳に届いて、街中とはまるで違う時間が流れていることに気が付きます。
 高台寺は、秀吉の正室だったねねが亡き夫の菩提を弔うため創建しました。本作に描かれた「霊屋」は秀吉とねねを祀った建物であり、ねねが眠る場所。霊屋の内陣の階段や厨子には桃山時代の粋を集めた華麗な蒔絵が施されており、「高台寺蒔絵」と呼ばれています。豊かな自然に彩られた境内には1000を超える紅葉が植えられ、京都でも屈指の名所として知られています。
 上村淳之は花鳥画を得意とする日本画家です。彼は京都で生まれ育ち、学生のころにはこの辺りへ「羊歯」の写生に通ったそうです。羊歯が芽吹く晩春から初夏にかけては青紅葉が美しい季節。スケッチしながら、上村はたっぷりと茂る瑞々しい紅葉に幾度となく目を奪われたのではないでしょうか。そろそろ梅雨が始まるころ。雨は東山の緑をいっそう美しく見せるに違いありません。

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