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便利堂ものづくりインタビュー 第7回 後編

第7回 李 志源(写真右) 聞き手:社長室 前田(写真左)

便利堂ものづくりインタビュー(7)前編はこちらから

───李さんは入社してすぐ研究にとりかかったんですか?

「最初に配属されたのがコロタイプ研究所でした。わたしが入る前から研究所では先輩によって実験が行われていましたが、わたしも初年度から印刷助手をしながらそこに加わりました。DASの刷版がまだ試作段階だったので、暗室に簡易的な乾燥機を置き、少量の液で版作りをし、試しに印刷をするというのを繰り返していました。今年で入社4年目なので、少しずつ前に進んできたなという感じがします。

───大変そうなのになんだか楽しそうです。

「わたしはこういう実験が好きなので向いているかもしれません。ずっと解決できなかったことを、こうしたらできるんじゃないかとやってみて、できるとうれしいんです。最初はコロタイプの仕組みや理屈もわかりませんでしたから、いろんな論文を読んだり、家に帰っても調べたりしていました。とても面白い仕事だと思いますね。」

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たくさんの経験で広がった視野

───熱心さが伝わってきます。

「職人は一つの技術を磨くのであまり部署を移動しません。でもわたしは逆で、マニュアル作りや実験をするためにコロタイプを全般的に学ぶ必要がありました。刷版を手伝いつつ製版では画像処理をして、印刷の助手をしながら実験もさせてもらいました。現場のみなさんが快く受け入れてくれたおかげですが、いろんな現場を見せてもらったことで以前より視野が広がった気がします。まだまだ勉強中なのでわからないことも多いですが、何かあったときに少し勘が働くようになりました。」

───やってみてどの仕事が一番興味深かったですか?

「どれも面白いんですが印刷かなぁ。紙と写真が合わさる感じがすごく好きなんですよ。写真を勉強していた頃も、写真をモニタ─上で見るときの感動はあまりなくて、フィルムからちゃんと印画紙にプリントされた状態を作るのが楽しかったんです。印刷は完成した状態を見られるのがいいですね。」

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自分の手が生む「手刷り」の魅力

───手刷りというと?

「円圧式の印刷機は機械の動力を借りますが、手刷りは手動のプレス機を使い、自分の手の加減だけで作品を完成させます。つまり、最初から最後まで一人の手だけで作業することができるんです。魅力があると思いませんか?」

───すごく特別な感じがします。機械と違うのはどんなところですか?

「一番は紙を選ばないところですね。機械では刷れない紙も手刷りなら大丈夫です。円圧機で刷るのと同じかそれ以上のクオリティのものを手刷りで作れたらいいですよね。機械のように何百枚刷る必要はありませんし、10枚、20枚程度をていねいに仕上げる。それが多色刷りでできればきっと味わい深くて面白いだろうなと思います。今、その研究も進んでいます。ぜひ関わっていきたいですね。」

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コロタイプってすごい!を気軽に体験してもらうために《COLLO-FULL(コロフル)》をリリース

───実現するのが楽しみです。ほかにも新しい試みがあると聞きました。

「そうなんです。便利堂が主催するアカデミーではコロタイプを体験していただけるワークショップを開催していて、これまで国内外から多くの方にご参加いただきました。しかし、新型ウイルス感染拡大防止のため昨年から開講できず、特に海外の方の参加はとても難しい状況になってしまいました。参加希望の声をたくさんいただいていただけにとても残念で、こうした状況でもなにか体験していただける方法がないか考えていたところ「ウェブ上で簡単にコロタイプをオーダーしてもらえるシステムをつくってはどうだろう?」と思いついたのが《COLLO-FULL(コロフル)》です。」

───面白そうです。送られてきたデータをあの大きな円圧式の印刷機で刷るのでしょうか?

「もちろん職人が動力の印刷機を使い、一枚一枚手作業で仕上げます。コロタイプにはほかの印刷では望めないような質感のなめらかさや、100年印刷ともいわれる耐久性など独自の魅力がたくさんありますよね。ですが、これまでコロタイプを体験したり、実感していただくには、アカデミーでワークショップに参加するか、もしくはプリントをご注文いただくか、この2つしか方法がありませんでした。しかし、ご注文となるとどうしても本格的にコストがかかります。私たちとしては、もっとたくさんの方にこの印刷のすばらしさを知っていただきたいという思いがずっとありました。そこで、コロタイプの独自のよさを気軽に体験していただく入口として《COLLO-FULL》を考えました。」

───簡単にオーダーができるんですか?

「ご利用方法はとてもシンプルです。ウェブ上に用意されたオーダーシステムに沿ってデータを入稿し、レイアウトを決めていただいたら「プリントサイズ」、「紙の種類」、「注文枚数」を選んでいただき完了です。サイズは名刺サイズと絵はがきサイズ、8×10インチの3種類をご用意しました。紙は三みつ椏またや楮こうぞなどいくつかの中からお選びいただけます。いずれもモノクロ単色刷です。名刺サイズと絵はがきサイズは100枚から、8×10インチは10枚からご注文いただけます。」

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一人でも多くのひとに知ってほしいから「低価格」

───お値段が気になります。

「たとえば…名刺サイズで片面印刷、紙は洋紙(PHO)で100枚のご注文なら29,700円(税込)です。コロタイプがどういうものか知りたい!という方へ提供するので価格はできる限りお安くしました。ご注文からお渡しまでの期間は、工房の混み具合にもよりますがおよそ2週間程度。基準のレタッチを適用することで製版時間の短縮と色校正のプロセスのスキップができ、このリーズナブルな価格と短納期を実現しました。丁寧、かつスピード感も大切にお手元へお届けする予定です。」

───どんな風にお使いいただきたいですか?

「自由に使っていただきたいですね。例えば名刺やメッセージカードをコロタイプで作り、クオリティの高さを楽しむのは大人ならではの贅沢な感じがして素敵です。あと8×10のサイズなら気軽な作品プリントとして充分お使いいただけます。あるいは家族写真や遺影など、大切な人の姿を長く留めおくプリントとしてもコロタイプは最適です。独特の質感にきっと満足してもらえると思いますよ。見慣れたインクジェットプリントとはまた一味違った質感と風合いに驚かれると思います。」

───《COLLO-FULL》をきっかけにコロタイプのよさを一人でも多くの人へ伝えたいですね。

「低価格での販売はまさにそれが目的です。コロタイプをやってみたいけれど敷居が高い、まずはどんな風に仕上がるのか見てみたい、注文の仕方がわからないといった方々に《COLLO-FULL》でお試しいただき、コロタイプのよさを実感したうえで、もっとクオリティの高いものや、オリジナル仕様のフルオーダーメイドで作るときにはご注文をいただく。そんな流れが作れるといいなと思います。海外の方にも気軽に試していただき、コロタイプの雰囲気を直に感じていただきたいですね。《COLLO-FULL》はコロタイプの可能性をどんどん広げるツールになっていくはずです。」

環境に優しいコロタイプの「エコプロジェクト」、手軽なコロタイプオーダーサイト《COLLO-FULL》など、李さんが携わる便利堂の新しい取組みをご紹介しました。コロタイプの技法には世界各国のアーティストからも高い関心が寄せられています。次回は海外アーティストと便利堂のものづくりについてインタビューをお届けします。こちらもどうぞお楽しみに!

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