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折々の絵はがき(30)

〈名所江戸百景するがてふ〉歌川広重
江戸時代(安政3年) 東京国立博物館蔵

◆絵はがき〈名所江戸百景するがてふ〉 歌川広重筆◆

 ここは江戸で一番賑やかな街、日本橋。「駿河町」の名前は、駿河国にある富士山の眺めがよかったことからついたといわれています。雲の向こうまで続く人の流れの両側には呉服屋三井越後屋(現在の三越)が並び、なんとも活気にあふれています。列をなすのは女中として働く女性たちでしょうか。きょろきょろ辺りを見回してはしゃぎたい気持ちを一生懸命抑えているようです。視線を移すと反物を担ぐ呉服屋に、魚河岸から天秤棒で魚を運ぶ男など、ここで暮らし、働く人も描かれています。一方で、笠を手に旅支度をした人々は故郷とまるで違う賑わいに息を飲み、立ち尽くしているようです。ああ楽しい。絵はがきを見ていると、高い建物から街行く人を眺めているような気持になります。

 しかし、絵の中の人たちもわたしたちと同じように、時には溺れそうになりながら日々を必死に泳いでいるのかもしれません。それでもここには富士山があります。誰にでもあるやりきれない思いや心配事でさえおおらかに包み込み、顔を上げその姿を見上げた人の身体には清々しい空気が通り抜けていくでしょう。

 歌川広重は美人画や役者絵などを描いたのち、「東都名所」を皮切りに数々の風景画を制作しました。この「するがてふ」は最晩年に手掛けた「名所江戸百景」の第八景。シリーズの中で富士山が最も大きく描かれていることでも知られています。

 さあ新しい年の始まりです。まっさらな一年にはどんなことが待っているのでしょう。今年もありがとうございました。みなさまの年末年始が穏やかで幸せなものでありますようにお祈りしています。

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