食と気候変動の話(後編②)〜農業の脱炭素化の鍵はカーボンクレジット!? ”IndigoAg”の紹介〜
はじめに
今回は前回、前々回の記事に続き、食に関連する気候変動・脱炭素の話について書かせていただきました。
後編②の今回は食糧生産の中でも農業の領域の脱炭素化と持続可能性を高める挑戦を行っているアメリカのスタートアップ企業IndigoAgについて紹介します。
IndigoAgの概要
設立:2014年
資金調達額:1.2B$
調達ラウンド:シリーズFラウンド
創業者: David Berry, Geoffrey von Maltzahn, Ignacio Martinez, Noubar Afeyan
HPリンク:https://www.indigoag.com/
参照:Crunchbase
IndigoAgとは
IndigoAgは農業の領域の脱炭素化と持続可能性を高める挑戦を行っていますが、それだけではなく他の農業課題の解決も行っている企業です。IndigoAgは大きく分けると3つのことを行っています。
1つ目は病気や害虫、土壌の栄養不足などの農家さんが直面する課題を微生物の力によって解決するソリューションの提供です。植物や農作物はマイクロバイオームと呼ばれる微生物を体内等に持っています。このマイクロバイオームは植物や植物が生息する場所・時代によって異なり、その異なったバイオームごと様々な機能や性質を持っており、病気から作物を保護するものであったり、干ばつに強い性質のものなどがあります。IndigoAgはこの様々な性質をもったマイクロバイオームをコーティングした農作物の種を製造、販売し、病気や干ばつ、害虫等の課題に負けない農業を提供しています。
2つ目は農作物の販売や商品化をデジタルソリューションによって効率化・合理化し、農業をビジネスとして成長させる支援です。農家さんは育てた作物をバイヤーや卸売業者の販売します。この農作物の販売のデジタル化が急速に進んでいます。その一方でよりデジタル化に対応したバイヤーや卸売業者に有利なように取引が進められてしまうようなケースが生まれています。IndigoAgはデジタルソリューションによりこの取引において農家さんもより優位に取引を進められるようにし、農業をビジネスとして成長させるサポートを行っています。
3つ目は農業の脱炭素化・持続可能性を高める取り組みです。農業では土地を耕したり、窒素肥料を過剰に使うことにより、土壌の有機物や窒素が温室効果ガスとなって空気中に放出されています。IndigoAgは農家さんに対し、土壌からの温室効果ガスの排出を抑える慣行の実践を進めています。この慣行は温室効果ガスを抑えるだけでなく、土壌の健康を向上させ、収量の向上にも繋がります。さらにIndigoAgの面白いポイントはこの温室効果ガスの排出を抑える取り組みを環境のためだけでなく、農家さんの収益拡大に繋げ、農家さんのプラスにもなるようにしている点です。具体的には、この取り組みによる温室効果ガス削減分をカーボンクレジット(次の章で説明します)として売買できるようにし、農家さんにクレジットの収益という作物の売買以外での収益源を提供しているのです。
農業の脱炭素化を進める鍵はカーボンクレジットか!?
今回の記事と前回の記事で農業・畜産の脱炭素化においてカーボンクレジットというものが用いられていることを紹介しました。これは個人的にカーボンクレジットという制度は農業分野の脱炭素化を進める鍵となると考えているためです。
まずカーボンクレジットという制度自体について少しお話しします。カーボンクレジットとは排出権取引と呼ばれるものの1つで、温室効果ガスの削減/除去活動による排出削減/除去量をクレジットとして認証し、温室効果ガスの削減目標を持つ企業等の自社の排出量を削減したい企業に売買する仕組みのことです。この排出権取引はもとは国家間で行われていたものです。京都議定書にて温室効果ガス削減目標を掲げた国(先進国)が、掲げていない国(途上国)内で取り組んだ活動によって減らした温室効果ガスの削減量を自国の削減量としてカウントできるというものが始まりです。これは先進国が主導となって、地球全体の温室効果ガス削減の取り組みを進めるために定められた仕組みです。
現在は、この排出権取引は国家間以外にも様々なところで様々な形で広がっています。一方で、農業と企業との間でのカーボンクレジットの売買の仕組みは京都議定書による排出権取引とかなり似ていると考えています。それは排出削減目標を掲げる企業が先進国、農業が途上国の立場にあたり、具体的には、排出削減目標を掲げる企業が、地球全体の温室効果ガス削減の取り組みを進めるために、自分達で削減活動を進めるのが難しい農家さんにかわり農業という領域での脱炭素化を推進し、その削減分を自社の削減量としてカウントするという形が京都議定書の形によく似ています。自国での排出削減が難しい途上国での脱炭素化を進め、地球全体での脱炭素化を実現するための策として考え、決められた京都議定書の仕組みに似ているということはつまり、農業におけるカーボンクレジットの仕組みはこの農家さん自身での排出削減が難しい農業という領域の脱炭素化の策として効果的で非常に重要な仕組みになるのではないでしょうか。
最後に
最後まで読んでいただき本当にありがとうございます!
次回も食の領域の気候変動の課題に挑戦するスタートアップ企業をご紹介します!
気になることやご意見等ありましたら、お気軽にTwitterにてご連絡ください!
Twitter→https://twitter.com/mikan238Tirol
今回の記事はIndigoAgのホームページを参考に書かせていただきました。
https://www.indigoag.com/
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?