見出し画像

【アンテナの『あん』 - 編集長:堤 大樹 02】旅、カルチャー、還元の先に

編集部メンバーがお互いを知るために、インタビューでメンバーを掘り下げ、アンテナの『なかみ』を副音声的にお届けします。
今回のテーマは『編集長・堤に聞く、フリーインタビュー』です。

「京都のカルチャーを発信するウェブマガジン」と銘打つアンテナ。サイトには音楽や芸術、映画、舞台……カルチャーから連想しやすいジャンルが並ぶ中、「TRAVEL」ではライターが旅先で訪れたスポットや食事に関する記事が並び、他のジャンルと趣が異なる。

編集長である堤さんがアンテナを立ち上げた当初に書いたと思われる記事でも、その国での観光に役立つ情報が詰まった記事や、手ぶらで台湾に行くという無謀ながらもユニークな企画記事が掲載されている。

しかし、今年に入って堤さんが書いたロシアやインドの旅記事ではその様相ががらりと変わっている。旅先の歴史、文化、社会、政治……色々な背景を踏まえ、カルチャーの本質を見極めようとしており、観光から一気に深みを増したようだ。堤さんの中で何かターニングポイントがあったのだろうか。今回のインタビューでは、アンテナ新米ライターの出原が堤さんの旅について聞いた。

実は私自身も旅が好きで、時間を見つけては国内外問わず足を運んでいる。いつも新しい風景や人に出会わせてくれる旅は、自分の知的好奇心を満たしてくれる最高の娯楽だと思っていた。だから今回のインタビューで、堤さんの旅に対する考え方に襟を正されてしまったのはここだけの話である。

堤 大樹(つつみ だいき)
26歳で自我が芽生えたため、まだ6歳くらい。「関西にこんなメディアがあればいいのに〜」でアンテナをスタート。関係者各位に助けられ、発見と失敗の多い毎日を謳歌中。自身のバンドAmia CalvaではGt/Voを務める。

読者が旅を「追体験」できる記事と「問い」を提案する記事

ーー早速ですが、堤さんの旅のスタイルについてお聞きします。現地で「必ずすること」はありますか?

堤:決めているのは「観光本を見ないこと」。地元の人が食べたり、遊ぶお店に行きたいから、あまり観光本を読んだり、観光地に行ったりはしないようにしてる。現地に友達がいれば、聞くのが早いんだけど、どこにでもいるわけじゃないから、その場合は通行人やホテルの人に「普段行くのはどこ?」って聞いたりするよ。

ーー確かに堤さんの記事では、観光客があまり行かなさそうな地方や街の名前がよく出てくる印象です。では、事前に現地の情報をどうやって調べていますか?

堤:いつも現地までの移動中に調べてる。最近はいろんな国の政治や文化をまとめた『●●を知るための▲▲章』って本があって、それを読むようにしている。以前ロシアに行った時にもそれを読んだよ。

画像1

ーーおぉ、なんだか教科書みたいな本ですね。

堤:政治や経済、民族について、いろんな分野の学者がその国について解説していて結構面白くて。これでそれぞれの国について下調べして、記事にも盛り込む感じ。

画像2

ーーなるほど。堤さんの記事では現地の社会情勢や歴史、文化が知れるだけじゃなく、現地で録音した「街の音」が再生できるようになっていますよね。いわゆる旅コラムとは違う印象を受けましたが、記事に音を盛り込むようにしたのはいつからですか?

堤:今年掲載したインドの記事で初めてトライしてみたんだよね。もちろん現地に行ってもらうことが一番だけど、読者がどうやったら現地を「追体験」できるのかなって考えていて。僕の友達にも結婚して子どもがいたりする人が増えてきた。彼らにどうしたら僕が見たり、聴いたことを伝えられるかなって考えてるの。文章や写真だけで現地のすべてを伝えるには限界があるし、色んなものが零れ落ちてしまう。街の空気感や色を伝えるには、音がいいなと思ったんだ。

ーー追体験するための記事。

堤:そうだね。ちょっと抽象的な話にはなるけど、自分が記事を作るとしても、解決型の記事に全然興味が持てなくて。

ーーおぉ。解決型とは?

堤:例えば、「台湾に行くなら絶対食べたい●●のお店10選」って記事をよく見るけど、これは●●を食べたいけどお店が分からない人の課題を解決するために書かれているよね。確かに役に立つし、PVもつく。僕が「自分でそれをやりたいか」、と言われるとどうしても興味がもてなくて。こういった記事はトレンドをキャッチするのが得意な人に任せて、自分は別のことにエネルギーを割きたいなって。

ーーなるほど。では、どんな記事を目指していますか?

堤:僕は記事を通じて「問い」をつくりたいと思ってる。なんで現地の人はこんなににぎやかなんだろう?屋台で溢れているのはなぜ?そういった海外の視点があるとはじめて自分たちのことも考えることができる気がするんだよね。なんでみんながスーツを着て働いてるんだろう?スーパーで座って接客しちゃだめなのはなんで?それを「面白いね、何でだろう?」と話し合いたいんだよね。

ーーでは、堤さんは現地で「何でだろう?」という疑問に出会ったらどんな行動を取られますか?

堤:まずは体験をして、そこで自分がどんなことを感じて考えたのかについて記録する。例えば、この前に台湾を訪れた時は日帰りで台南のフェスに行ったよ。小さいイベントだったけど、現地のアーティストだけじゃなくて、インドやシンガポール、日本、ヨーロッパなど国際色豊かなアーティストが出演していたんだ。

そのフェスを街をあげて盛り上げようとする空気が気になって。ビジネスの匂いもそんなにしないし、なぜそのフェスが台湾で開催できていて日本では開催されていないんだろう。どうやったら京都で開催できるのかなって考えてた。

ーー台湾のフェスを見ながら、日本や京都にどう落とし込めるかということを同時に考えていたんですね。

堤:そうだね、答えはないけどヒントを探している。今回は4時間しか滞在できなくて具体的なものは得られなかったけど、できるだけ足を運んで探したい。

行くことが難しい場合でも記録して、後から見返すようにしているよ。違和感として引っかかったものの中に、何かヒントがあるかもしれないから。

消費とは違う、旅先での関わり方

画像3

ーー堤さんが4年前に書かれた記事を読んだら観光情報が満載で、先ほどの「問い」を生む記事と内容が違っていて驚きました。「問い」を生む記事を書くようになったきっかけはありましたか?

堤:明確にはないけど、もっと1つの「場所」に深く関与したいと思うようになった。観光という行為は何もその土地に寄与しないし、一方的に消費する行為だと気付かされることがあって。僕は「インスタ映え」って言葉が好きじゃないんだけど、みんなも心のどこかでは心地よいものだとは思ってないんじゃないかな。今オーバーツーリズムも世界的な問題になってきているけど、僕は旅で訪れた土地を消費するんじゃなくて、できるだけ違う関わり方をしていきたいなと。

ーーなるほど。それが観光と旅の違いでしょうか。

堤:そうだね、旅の良さって環境が変わることで、感度が高くなって自分が日常生活で取りこぼしていることを改めて再発見させてくれるところにあるし、それは絶対、日常生活に返ってくる。

自分自身の感性は変わっていないはずだから、旅先で感じたことは本来日常生活でも感じられることなんだよね。感度が鈍っているだけ。観光で消費的な行動しかできない人は、日常生活でも消費的な行動をしているのかもしれないね。

ーー旅先を見ているようで、自分を見ていると。でも堤さんは旅をしながら自分の内面だけじゃなくて、現地や京都に還元できるものはないかなという視点で旅をされているんですね。

堤:できているかどうかはまだ分からないけど。結局自分の行動はすべてが世界のできごとにアクセスしているし、そのことに対してもっとひとりひとりが自覚しないといけない。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんが言っていることも、そういうことだと思っている。「100%消費をしない」とは言い切れないけど、そこに近づく努力が大切なんじゃないかな。その視点で世界を見ると、日本や京都に持ち帰れる何かが見つかるかもね。

ーーそのアウトプットや還元する形として、アンテナというメディアがあるんですね。

堤:そうだね、僕たちが媒介になって記事で発信したり、新しい何かを作ったりすることで還元したいと思う。

画像4

僕に教えてもらえるとうれしい。

ーー次はどんなところにいってみたいですか?

堤:年末年始に中央アジアに行きたいと思ってる。ウズベキスタンはインダス文明とメソポタミア文明と黄河文明が集まるシルクロードの交易点で、文化がミックスされて面白いなと。日本人はルーツをさかのぼりやすいけど、彼らは何をアイデンティティの依代にしているのか、今どういう風に文化がミックスされているのかそれを見てみたい。

ーーこれからアンテナのTRAVELのジャンルはどのように育てていきたいですか?

堤:あれは最初、趣味で作ったジャンルなんだよね。でも消費とは違う旅の形を発信して、それがカルチャーとして僕らにどう結びつくのかみんなで話し合う場として育てられたらいいなと思う。それこそ現地のポップカルチャーにつながる記事は今後つくりたいよね。

ーーそして、記事を読んだ人が現地に行ってさらにカルチャーに触れてほしいと。
堤:そうだね。アンテナの記事がきっかけで現地に行ってくれる人が出てきて、その人がさらに詳しくなって僕たちに教えてもらえると一番うれしい。


編集後記

旅先で出会ったカルチャーを自分の中で咀嚼して、日本や京都に還元しようと奮闘する堤さん。アンテナもその還元の流れの中にある。

今回のインタビューの中で、堤さんの中に大きな水流が轟々と流れていることに気付いた。そこに流れるのは情報だったり、アイデアだったり、言葉だったり、夢だったり。激しい水音で周囲のざわめきが遠ざかっていくような、不思議な感覚に陥ったほどだ。

そして自分も気づかないうちに堤さんの大きな流れに合流していたようだ。稀有なご縁に改めて胸が踊り、ライターとして精進しようと思った次第である。

(ライター:出原 真子 写真:堤 大樹)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?