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昆虫食は世界を救うか


The Insect Cookbook: Food for a Sustainable Planet
「昆虫クックブック:持続可能な惑星のための食物」
by Arnold van Huis, Henk van Gurp, and Marcel Dicke
March 2014 (Columbia University Press)

食とは、本来保守的なものだと思う。

人類がまだ狩猟採集生活をしていたころ、未知の生物を食すというのは、命にかかわる危険があり、よほどせっぱつまっていなければやらなかっただろうと思うからだ。

できれば食べなれた食物だけを食べていたい。それはとても自然なことだ。

正直、私も「昆虫食」には及び腰なほう。
父がなんでも食べる人で、ホヤ、いずし(なれずしの一種)、くさや、なんでもござれ、イナゴの佃煮、ハチノコ、マムシ、アリの佃煮なんて珍品も、うちの冷蔵庫にあった。

そして「なんでも経験だ」といって、絶対に家族にひとくち食べさせる。「食べてもいないのに、ダメだと決めつけるな」というわけだ。
おかげ様で、いろいろなものを食べる経験はできたが、食べてみて、やっぱりダメっていうものはあるし、そのなかでも昆虫食は、とにかく見た目がダメだった。

「こんなものは文化的なバイアスで、東南アジアでは昆虫なんてフツーに食べてるんだから」と自分に言いきかせてみても、いざ、佃煮にされたイナゴと目があってしまうと。。。ああ、ゴメンナサイ。

本書は、昆虫学の大家と料理人が、昆虫食の魅力や、世界の食糧危機を解決する食材としての昆虫食の意義、そしておいしい昆虫食のレシピなどを大まじめに論じ、紹介している。

著者のひとり、Arnold van Huisは、オランダのワーゲニンゲン大学の昆虫学の名誉教授で、FAO=国連食糧農業機関の昆虫食問題の顧問でもある。

本書には、第7代国連事務総長で、ノーベル平和賞を受賞した故コフィ・アナンさんも文章を寄せている。
「政治家たちをディナーに招き、昆虫食を供しなさい。彼らはあらゆるところで、そのおいしさを宣伝するだろう」

本書には、昆虫農家、政治家、栄養学の専門家など多彩な人たちのインタビューが掲載されているが、ミシュランの二つ星レストランNomaのシェフ、レネ・レゼピのインタビューも載っている。あの「世界一予約の取れないレストラン」といわれたNomaのシェフが、昆虫食についてどんなことを語っているのだろう。

目次を見ていたら、Wasp Larvae in Japanというのがあった。Wasp Larvaeはしらべたら「蜂の子」だった。日本のハチノコについての章だ。だれが、どういう文章を書いているんだろう。

それからこれは特筆すべきことだと思うが、サンプルページに載っていた昆虫食の料理の写真が、けっこうイケそうなのだ。

下の画像はサンプルページで、mealworm、ミールワーム、つまりイモムシの揚げワンタンの写真。なんかオシャレ。

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そういえば昆虫食って、どうしてみんな「まんま」な姿だったんだろう。肉だって魚だって加工してるほうが多いのに。私のいとこは、食べられる魚料理と食べられない魚料理があって、なにがダメかというと、お頭(かしら)がついているものがダメだった。焼き魚でも煮魚でもお造りでも、魚の頭があると、「魚と目があってしまって食べられない」そうだ。私のイナゴの目といっしょだ。

昆虫だって、手を加えてそれとわからなくしてしまえば、かえって「昆虫」という偏見がなくなっていいかも。

昆虫食は世界じゅうどこにでも見られるし、日本国内でも昔からイナゴやハチノコ、ザザムシなどを食べる地域はあった。それは文化だし、自分が属している社会以外の文化をさげすんだり、否定したりしてはいけないと思う。どんな文化も尊重すべきだし、できれば、そのよさをわかりたい。そのほうが、世界が豊かになる。

でももちろん、どうしてもダメという人に、むりに好きになれとか、親しめと言っているわけではない。さいしょにも書いたように、食は本来、保守的なものだと思うから。

でも、未知のものにたいする好奇心が、人類を進化させてきたともいえるわけで。

多様性を認める、というより、むしろ多様性を寛容するといったほうがいいかな、そういう社会のほうが居心地がいい気がする。


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