月に吠える獣 1
「醍醐(だいご)!ほら、出番だ!早くしろ!」
赤い燕尾服に黒いスラックス、ワックスでテカテカと光るオールバックの小太りの男が、右手の鞭を振るいながら叫んでいる。
男が叫ぶ先には動物を入れておく鋼鉄製のケージがあった。
奇妙なのはそのケージの中に入れられているのが手足や、肋の骨が浮いているほど痩せた、恐らく10歳にも満たないであろう1人の少年だという事だ。
ビシィッ!
再び男の振るう鞭が醍醐と呼ばれた少年の右脚に当たる。醍醐の右脚に数本の傷があった。まだ新しいものから、もう何年も経過しているものもある。
鞭が当たる度に醍醐の右脚を赤く染め、血が流れていく。
「うっ」
小さく呻き声を上げるが、なお動こうとしない醍醐に男は舌打ちをし、ケージに繋がれている鎖に手を伸ばした。
ジャラ
鎖は醍醐の首に鈍く光る輪に繋がっていた。
「ほら、立て!」
男が乱暴に鎖を引き上げる。
「っう」
激痛に顔を歪ませる醍醐の上半身が持ち上がる。
男はそのまま醍醐を引き寄せると、ゲージを開け醍醐を引き摺るように部屋の奥にある鉄製のドアへ歩いていく。
「しっかり歩け!お前の出番だ!しっかり仕事をしろ!」
男は醍醐に怒鳴るとドアを開けた。
ドアを開けるとすぐに赤い大きなテントが目の前にあった。
テントの中からは男女の歓声が上がっている。
男と醍醐が先程まで居たのはサーカス団の倉庫だった。
続く
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?